協議中断は、日本側にとっては拉致解決が膠着してしまうことになり、北朝鮮にすれば、国交正常化の暁に手に入れられる巨額の援助資金が遠のくことを意味するわけだ。
「経済制裁もあり得るぞ」という強い世論は、<現状では納得できない>という強烈なメッセージを北朝鮮に送ることになる。その点で、金正日政権への圧力として有効に機能しているのは間違いない。だが、それは実際に経済制裁が発動された場合のパワーに裏打ちされた圧力ではない。経済制裁発動を叫ぶことと、実際に発動することとは、外交政策上は別の次元の意味を持つということを理解する必要がある。

今、日本国内は経済制裁発動を求める怒りの声一色の感がある。メディアで経済制裁の有効性について疑問を呈したり、反対でもしようものなら、袋叩きに遭いそうな雰囲気だ。だが、怒りの感情で政策が決まっていくのは怖い。感情は移ろいうるものである一方、一度採った政策は変更や後戻りが簡単ではないからだ。

それでも経済制裁発動に踏み切れば、北朝鮮政権は協議の席から立ち、制裁解除を協議開催の条件としてくるのは必至だ。結局、解決の進展を遅らせる口実を与えるだけで、膠着の期間は無為に時間を浪費するだけになりかねない。

解決を促す「圧力」としての現実的有効性よりも、「報復」「懲罰」といった意味合いから、経済制裁を唱える声が大きくなっていくのは本末転倒である。その先にあるのは隘路だ。北朝鮮問題はさらに混迷を深めていくことは避けられない。もう一度、拉致問題解決のためのビジョンを立て直すことが急務だ。
金正日政権相手の交渉進展は困難至極だろう。老いた被害者家族には長い時間もない。だからこそ進展の障害になる可能性が高い経済制裁は、今取るべき選択肢ではないと、あえて述べておきたい。
(続く)

石丸次郎 拉致問題を考える (2) - (4)

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