北朝鮮の思惑と内情は? 権力中枢に詳しい脱北者に聞く
なぜ外交交渉でうそやデタラメが出てくるのか?それは金正日の意向なのか?北朝鮮内部の意思決定はどうなっているのか? 北朝鮮に長らく暮らし、権力中枢の事情に詳しい日本在住脱北者の李烈さんに聞いた最終回。
石丸次郎 拉致問題を考える1回へ

北朝鮮が横田めぐみさんのものとした「遺骨」はニセ物だった。「ニセ遺骨」を提出したのは、火葬すればDNA判定ができないと高をくくっていたのだろうが、結果は最高指導者金正日総書記の顔に泥を塗るようなもので、日朝国交正常化交渉の頓挫も避けられず、金正日政権にとっては、自ら墓穴を堀った打撃は大きいと言わざるを得ない。

なぜ外交交渉でうそやデタラメが出てくるのか?それは金正日の意向なのか?北朝鮮内部の意思決定はどうなっているのか? 北朝鮮に長らく暮らし、権力中枢の事情に詳しい日本在住脱北者の李烈さんに聞いた。

竏停・拉致問題に対する北朝鮮側の対応をどう見るべきか?
李 最高指導者であり独裁権力者の金正日が、実際には'北朝鮮の万能の神'ではないことをよく示した結果だったと思う。拉致問題は、金正日が犯罪を認め謝罪した。昨年5月の小泉再訪朝時には、10人の安否不明者(北朝鮮主張は8人死亡、2人は未入国)について再調査を命じたが、死亡・不明とされた人々の結果は覆らなかった。北朝鮮側が提出した「8人死亡」の証拠の貧弱さ、そしてめぐみさんのニセ遺骨が、最高権力者金正日の力の限界を示している。拉致問題の一定程度の解決は、国交正常化の必須条件だが、そのための脚本は、金正日自らが出演して、拉致を認め謝罪するというリスキーな筋立てだった。適切で強い指導力を発揮できないため、ストーリーは想定外の方向に進んだ。

竏停・その脚本は金正日が書いたものではないのか?
李 それは違うだろう。北朝鮮は独裁国家だといっても、最高意思決定は、下から上がってきた<提議>を金正日がサインして<採択>し、<方針><命令>という形で実行権を付与し、下部が<執行>する。今回は、国交正常化の暁に日本から巨額資金が入る重大プロジェクトだから、首脳会談→拉致認定と謝罪→二国間宣言→正常化交渉開始というストーリーの中に金正日の配役が必要だと、下部が脚本書いて金正日が採択したものだろう。

竏停・脚本を書いた人間は失敗の責任を取らされことになる?
李 下部のものは指導者の権威を傷つけることが重罪になることを百も承知だから、巧妙に<提議>する。あたかも金正日自身の意思で決定するように誘導するのだ。金正日は何人かの側近と垣根の中だけで過ごしており、対外的にも国内的にも孤立している。垣根の中に閉じこもったばかりに、超法規的な立場にいながら、リーダーシップではなく、上がってくる<提議>にサインをすることが彼の機能になってしまった。

竏停・北朝鮮内部では拉致問題への対応をどう評価しているだろうか?
李 もちろん、戦術的に失敗したと考えているだろう。だが、それは交渉を主導した勢力にとっての失敗であって、他の勢力は逆に好機とみて利用し、担当した勢力の足を引っ張って自己の勢力拡大を図るだろう。
次のページへ ...