「彷徨する総統機」
p-0513.jpgフロアで進行する儀式。正装をまとった観衆がにこやかな顔でそれを囲んでいる。すると少し小太りの男性が列を抜け出して前方の中年女性に近づき、言葉をかけたかと思うと、拍手をしている両の手を奪うようにして力強く握手した。

そして左手を広げて指差した方向には若い女性が小さなデジカメをかまえている。ハイ笑って、パチリ――
有名人を見つけたファンがツーショットを強要したともとれるこのシーンが台湾のテレビでは繰り返し放送されている。たわいもない瞬間にも取れるが、女性がローラ・ブッシュ大統領夫人、男性が陳水扁台湾総統となれば、たわいない、ではすまない。場面は、コスタリカ大統領の就任式場である。

この就任式が主目的であったのだろうか、陳総統は中南米歴訪の旅に出て、昨日ようやく帰国した。この四日、台北を発ったものの、ガソリンなどを補給する経由地は未定だった。「行方不明」の中華航空機がその姿を現したのはなんと中東のアブダビ。アメリカに本土通過を断られ、レバノンにも着陸を拒否されての結末である。コスタリカからの帰路も、未定あるいは未公表だった。結局、経由地はリビア、そしてインドネシアとなった。

米高官は、これがプレジデントの航程か、まるでゲリラ部隊だとつぶやいたという。台湾のメディアも「謎航(ミステリーフライト?)」と称した。某台湾人記者は、自嘲気味に伏目で「今度の旅行どう思うか?」と私にきいた。彼らも恥ずかしいと思っているのだ。

台湾外交部は、リビアとインドネシアなど国交のない国に降りたことが、「外交の成果」だと自賛する。しかし、「こんなゲリラ旅行に莫大な金を注ぎ込んで何の意味があるんだ」というのが、市民の率直な感想ではないだろうか。インドネシアといっても、ジャワではない。バタム島という小さな島である。しかもインドネシア政府は、給油を許可しただけで、宿泊は認めていなかったのに台湾は約束を破ったとカンカンに怒っている始末だ(ポーズだとしても)。
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