「ちりとてちん」

yannagi_0711_06.jpg【台湾鉄道の駅弁。200円ちょっと】

この10月から放送されているNHKの朝ドラは「ちりとてちん」という。若狭の塗箸屋の娘が大阪に出て落語家を目指すというストーリーらしい。

珍妙なタイトルだが、ちょっとその方面に関心のある方なら、すぐに気づかれると思う。これは有名な古典落語のお題である。
いろいろなバージョンがあるかもしれないが、私が記憶にとどめているのは、五代目小さん師匠のもので、だいたいこういう話だった。

町内にいつも知ったかぶりをする嫌われ者がいる。そいつを懲らしめてやろうと、カビの生えた豆腐を「台湾土産」だと言って食べさせる。
すると、まんまとひっかかって、ああこれなら知っている。「ちりとてちん」という「台湾名物」だと知ったかぶりをして食べてしまうのだ。

台湾には失礼な話だが、私の知りうる限り、古典落語に「台湾」が登場する唯一の例ではないだろうか。
江戸期にも同じような噺があったらしいが、「台湾」という地名が使われるようになったのは、明治の中期以降のことであろう。

台湾が日本の領土になったのは、明治28年。日本にとって初めての植民地であり、初めて身近に接する「異文化」の地だった。
台湾に二十年住んでいる私にとっても、いまだに理解しがたい食べ物がたくさんあるくらいだから、当時台湾に渡った人たちは、あまりの飲食文化の違いに眼を白黒させたことだろう。

いやいや、台湾にはおいしいものがあるよと反論される向きもあるかもしれない。小龍包はあまりに有名だし、水餃子だって安くておいしい。四川ならあの店、最近は上海料理がブームだ。牛肉麺のコンテストもある…。
しかしこれらはすべてもともと台湾にあった料理ではない。つい六十年ほど前までは、この島の中ではほとんどみかけなかった食べ物なのである。
(この項つづく)