建設現場に駆り出された労働鍛練隊の収容者たち。この「ただの労働力」を、特権層の幹部たちは、私用に使うという行為も横行しているという。(2005年5月、清津市 リ・ジュン撮影)

建設現場に駆り出された労働鍛練隊の収容者たち。この「ただの労働力」を、特権層の幹部たちは、私用に使うという行為も横行しているという。(2005年5月、清津市 リ・ジュン撮影)

 

トクスの家族の場合も、もっとも健康で働き盛りのはずの彼の収入はゼロであった。反対に長患いしている妻と12歳の娘が、市場に出て稼いで来る収入で、辛うじて生計を立てている状態だった。

だからといって、もしトクスが収入を得ようと市場に出たらどうなるか?
工場を欠勤した罪で「行くぞ部隊」、すなわち労働鍛錬隊にぶち込まれて、一定期間、無報酬の強制労働をさせられるのである。それが嫌なら、工場に「8.3 納入金」と呼ばれる大金の納入金を期日までに入れなければならなかった。
トクスのような貧しい労働者たちに突きつけられる二つの選択肢は、どちらにしても、簡単には応じることのできないもので、労働力か金の強制的収奪方式に違いなかった。

「行くぞ部隊」で強制労働をさせて生じる利益は、鍛錬隊幹部たちのポケットにすっかり吸い込まれる。一方 「8.3納入金」は工場の幹部たちが全部自分のものにしてしまう。

労働鍛錬隊生になるか、それとも賄賂の「8.3 納入金」を納めるか。どちらかを選択せざるを得なかった労働者たちの苦痛によって、不当に所得を得ているのが幹部たちなのである。

そして、この収奪の仕組みによって、さらにひどいことが発生していて、それが、この日のトラブルの原因なのであった。すなわち、労働者たちを搾取、収奪して得られる不当な所得は、幹部たちの利権と化して、争いが起こっているのである。
労働者をぎゅっと搾って集めた血を巡って、鍛錬隊と工場の幹部たちの間で熾烈な奪い合いが起きているのだ。今、まさにトクスはその生贄にならんとしているのである。
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