さらに軍需事業および(独裁と南北対立という)政治的コストに圧迫されて来た国家は、計画経済の混乱に対する備えもしてこなかった。
6~70年代まで伝統的国際主義原則を守って来た社会主義陣営が、大変動期となった80年代から(社会主義を捨てて)民族主義に急激に向かい始めると、そこに寄生して配給制社会を運営して来た未熟な朝鮮経済は、その大動脈が100%切れてしまったのだ。

電力分野の例を一つ見てみよう。朝鮮にある火力発電所の大部分は、国内に埋蔵されている石炭に依存した「微粉固形物燃焼ボイラー」を使ってきたが、それはただ燃料の構成で石炭の比重が大きいという意味である。

技術の原理上、調節負荷(満負荷ではない状態)時、安定燃焼状態を維持するためには、大量の重油飛沫の噴射が絶対に必要だ。交流電力の周波数が落ちてしまうと、炉の運転(蒸気ボイラー加熱での運転)は「調節負荷」状態に入って行く(注1)。
まさにこの時に、大量の重油噴射が必要となる。この時に重油が底を付いていたら、火が消えて設備の老朽化が加速し、設備の効率も稼動率も急激に落ちて、ボイラーはだめになってしまうのだ。

それで、朝鮮では水力発電が作る傾向にあったが、ダムは何といっても膨大な建設資金投資がネックとなる。
それで、原価を下げようと人民軍を動員させるんだが、軍人の土木工事なんてめちゃくちゃなのだ。泰川(テチョン)発電所や安邊(アンビョン)発電所の実態を見せたいぐらいだ。水密被覆工事(注2)を無視したせいで、一定の落差を生む水位が保たれないなどの不良建設が行われ、人民軍の建設した水力発電所は、必ず再施工しなければならなくなる。

そんな事情のために、水力発電所建設は中小型のみになってしまうのだが、そうするとまた、水力発展設備の効率低下と、季節によって稼働率にムラができてしまう(冬季の凍結のため)。また(昔ながらの)群衆動員による建設運動の無駄のため、経済状況は良くなるどころかかより悪化するばかりだった。
伝統的に、朝鮮は社会主義陣営などとの関係に頼ってきたから生き延びることができた。その時ですら、朝鮮は内部の構造的矛盾によってがんじがらめだった。

それが今、国際社会の付き合いから離脱して、また経済の構造改革に逆行しながら、霞を掴むような「われわれ式経済」を唱える行為は、90年代大混乱を繰り返そうとする反経済的な行動だ。
我々は民間に経済を譲渡した中国の経験から、謙虚に学ばなければならない。
(つづく)

注1  正常時は1秒当たり60ヘルツだが、発電と負荷のバランスが崩れることによってその数値が下がる現象を言う。具体的には発電機の回転数が落ちること。発電所ではこの時自動速度調節機を分離して危険運転を行う。
注2 水密被覆工事
貯水池の水が石灰岩の底から漏れることを防止するための被覆工事。

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