越えなければならない山がない海州や開城(ケソン)へは、道路が舗装された最近では、鉄道ではなく自動車を利用することが多くなった。ボロボロの経済の中でも、大衆交通は(ジャンマダン経済のおかげで利潤が出るため)自力で整備され姿を変えつつあるのだ。
列車は今、チョウン峠を左に見つつ、金野(クムヤ)平原をガタゴトと音を立てながら通過している。

氷に覆われたチョウン峠や、海抜700メートルに達する「摩天楼峠」を自動車で苦労しながら登るより、多少時間はかかり、なにかと不便はあっても、列車に揺られて行くほうがずっと安心だ。

そのため、ある程度生活に余裕のある私も、保衛部傘下の貿易指導員である友人も、列車の旅をすることにしたのだった。
暖房装置が作動しない列車の中は、人の体温だけで温められている。

下段の乗客の邪魔をしたら悪いと思ったのか、上段の席の老夫婦は昼間から自分たちの寝台で毛布をかぶって横になっていたのだが、いつのまにか降りてきて私たちの隣に腰掛けていた。品のある夫婦だったが、夫の方はしきりに「フーフー」と白い息を吐いている。

通路から聞こえる咸鏡道方言を聞きながら窓の外を見ているうちに、端川(タンチョン)駅に到着した。
「ずいぶん早く着いたな。ほとんど定刻じゃないのか?」

不思議に思い、鉄道駅の表示をもう一度確認しようと体をねじってガラス窓の外を見回していると、そんな私の様子をにやにやしながら見ていた友人が「列車に乗る前に、鉄道局の司令にちょっとつかませてやったんだ」と言って目配せした。
「なんだ、そういうことだったのか」
(つづく)
(資料提供 2006年8月リ・ジュン 整理:リュ・ギョンウォン)

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