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【物的・人的資源の接収を規定した国家総動員法】

【物的・人的資源の接収を規定した国家総動員法】

第2章
密かに進む国家総動員計画と資源局
人間のかたちをした「資源」

資源局は「資源分類表」に基づき、各種「資源」の現況調査を進めた。人員であれば人数・性別・技能・有資格者数など、物資なら生産量・保有量・消費量・輸出入量など、工場であれば所在地・所有者名・生産力などを事細かに調べ、その上で戦時の需要量と供給能力などを想定し、生産計画や動員計画を練り上げていった。

政府の各省庁がこれに協力をした。
そのための法律である資源調査法も、1929(昭和4)年4月に公布されている。
その第1条には、
「政府ハ人的及物的資源ノ調査ノ為必要アルトキハ個人又ハ法人ニ対シ之ニ関スル報告又ハ実地申告ヲ命ズルコトヲ得、前項ノ資源調査ノ範囲、方法其ノ他必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム」とあり、
第2条では、
「当該官吏又ハ吏員ハ人的及物的資源ノ統制運用計画ノ設定及遂行ニ必要ナル資源調査ノ為必要ナル場所ニ立入リ、検査ヲ為シ、調査資料ノ提供ヲ求メ又ハ関係者ニ対シ質問ヲ為スコトヲ得、此ノ場合ニハ其ノ証票ヲ携帯スベシ」と定められた。

今日、「人的資源」という言葉は、政治や経済や軍事、あるいは医療・教育・国際協力など様々な分野で使われ、その意味としては、
「労働力を、他の生産要素と等しく資源の一つと見なしていう語」(『広辞苑』 岩波書店)

「すぐれた研究員や熟練した労働者がもつ能力の経済的価値を、ほかの物的資源と同じように生産資源の一つと見なしていう語。ヒューマン・リソース」(『大辞林』 三省堂)

「人の労働力を他の物質と同じように国家の資源の一つと見なしていう語」(『日本国語大辞典』 小学館)といった理解が一般的になされている。
しかし、かつて資源局が作成した「資源分類表」にも明らかなように、「人的資源」とは元々、人間そのものを表していたことはまちがいない。
つまり「人的資源」とは、人間のかたちをした資源を意味していたのである。
それが「人的資源」の本質である。

その本質は、今日使われている「人的資源」という言葉と発想にも深く内包されていると、私は考える。
「資源というのは消費するものですよね。人間を資源というのはおかしい。自衛官を使い捨てにするような発想が表れています」と言った、鈴木佳子(仮名)の直観と理解はやはり正しかったのである。
~つづく~
(文中敬称略)

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