ここでは、人間は「人畜」とある通り、家畜(軍馬がその筆頭に置かれる)と対になって、物資や金銭と同じように扱われている。
それが大前提となっている。
そのうえで、「人は戦争遂行の為の量要因子にして兵員の増加補充、軍需諸品の生産製造、傷病者の治療看護等、直接戦争の為に多大の人員を要する」と、「資源」としての人間の必要性・利用価値を説く。

そして、「人は事業の源泉なるが故に、之が統制按配は実に国家総動員の根基を成すと謂ふべく、之が巧拙適否は実に戦争遂行上重大の影響を及ぼす」と、人員の統制が国家総動員の根本であり、いかに巧みに統制できるかどうかが戦争遂行の成否を握っている点を指摘している。
だからこそ、「国家総動員は国民の愛国奉公心、犠牲的精神を極度に要求するもの」だとし、「精神動員若は民心動員と謂ふ得べけむも此の動員は実に国家総動員の根源」であると強調する。

つまり、人間を「資源」として巧みに統制し、利用するには、家畜や物や金銭とは違って、「精神動員」すなわち心の統制、いわばマインド・コントロールが必要不可欠である点を、きっちり計算に入れているのである。

このように、第1次世界大戦という史上初の国家総力戦に触発され、その実態を調査研究した、永田鉄山を中心とする日本陸軍の高級将校たちによって、「人員資源」や「兵員資源」、「戦用諸資源(人、馬、物件ノ全部ニ亘ル)」、「総動員の目的物たる有形的資源は人畜、物体及び金銭」といった、人間を戦争遂行のための国家の資源と位置づける表現・用語が編み出された。
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