つまり、個人の住居を囲う垣根があって、家の持ち主の同意なしに他人はその垣根の中に立ち入ることができないように、主人の「権利」が法律で保障されているんだ。例えば、家の主人が、暮らしている領域に野菜を植えたとしたら、そこに他人が入って来て踏み付けたり、あるいは通り過ぎざまに手を触れたりすることができないよう、主人には垣根を張る権利があると、国家が個人所有の住宅には承認しているのだ。

農村には早くからそのような概念があった。朝鮮では農家ごとに三〇坪の畑が与えられているが、その土地に対して「主人」の権利を付与している。実際には住宅の敷地まで含めたその土地は、個人の所有物ではなく「利用権」だけが与えられたものなのだが。

今日、自分の垣根の内側の土地の一部を隣家などに売るとなると、それは(法的には)国家所有の土地なのだけれども、土地を買おうとする個人から、金、つまり相手の個人財産を受け取って(事実上)所有することになる。このような売買は、裏取引の様相を呈するしかない。
取引をしてみると、「持っていた」土地には、国家が付与した価値(財産としての)が、あったんだなということがはっきりわかる(このことは、ほとんどの取引の際に、国家の役人が介入して賄賂を要求することによってさらにはっきりするのだ)。

こうして、土地を売買する両者にとっては、不動産の値打は、客観的で確固たるものとなるのだ。
この過程を経ると、住民だろうが役人だろうが、朝鮮の人々は、不動産に対する個人所有と権利に対する概念を持つに至るわけだ。

石丸:国家住宅を利用するための許可証には使用期間が書かれているのか?
リ:朝鮮には、国家住宅が闇の売買のターゲットになるしかない構造的な死角がある。
各道、市、郡、区域の人民委員会(地方政府)には「都市経営課」という部署がある。この部署は、各住民がどこの、どんな家に住むことができるのかを決めて、実際に家を配定する(割り当てる)。それを公式に認める国家証書、すなわち「住宅使用許可証」(入舎証)を「都市経営課」が発給してくれるのだ。

その許可証の最初のページには、主人(入居者)の名前、現居住地、家族の人数、家の位置や建築面積......、というようなものが明記される。次のページには主人の現在の職場と地位が記述される。

ところが、入居する人の住宅使用期間はそこには書かれない。朝鮮では慣習上、主人が死ぬまで、いや、死んだあとまででも、一度国家から割り当てられた住宅は、そのままずっと使うのが当然のこととなっている。事実、一度配定された国家住宅は、子供にも譲渡されるのが慣行になっている。
なぜそうなっているのか? 私の考えはこうだ。

もし住宅使用期間を入舎証に明記してしまうと、家の使用期限が来たら住んでいた人間は、いったいどこに行けばよいのか? 朝鮮のような社会では、どこにも行くところがないのだ。

許可証に使用期限がないということは、すなわち一度家を受け取ったら、移動せずにそこに住み続けなければならないという、国家の命令、あるいは無言の約束があるということなのだ。つまり、住宅は国家所有だが、各個人は自分が割り当てを受けた家に永久に住み続けるしかないのだ。
だがそれは、結局、権力を利用して家を好きなように割り当てることのできる幹部たちにとっては、本当に都合の良い制度なんだ。これがまさしくわが国の国家住宅供給の盲点ではないだろうか?
(つづく)

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