法務省東京都の霞が関にある法務省。

国家が情報を隠蔽するとき

10 重要な統計がたった1年で廃棄に
このなかで目立つのは、窃盗と横領で「第1次裁判権不行使」が不起訴理由の半分以上を占め、恐喝ではそれが不起訴理由の全てにあたることだ。
なお、自動車による過失致死傷での「第1次裁判権不行使」人員数は121人、不起訴人員総数は2140人である。

その他の不起訴理由としては、「起訴猶予」1861人、「第1次裁判権なし」93人、「嫌疑不十分」55人、「裁判権なし」1人、「その他」9人である。
自動車による過失致死傷での不起訴で、上記とは別に、「公務中」の事件だという理由で日本側に「第1次裁判権なし」のケースが439人いる。米軍人被疑者の所属部隊の指揮官が「公務証明書」を日本側に提出しさえすれば、「反証のない限り、公務中に属するものであるという事実の充分な証拠となる」(日米地位協定の刑事裁判管轄権に関する事項)という日米間の合意があるため、人数も多い。

「合衆国軍隊構成員等犯罪事件人員調」は数字が並ぶ統計報告なので、なぜ「第1次裁判権不行使」で不起訴になったのか、それぞれの理由や事情は記されていない。
そこで私は、「第1次裁判権不行使」とした理由や事情がそれぞれのケースでわかる文書があるはずだと考え、その開示を求めて、法務省に情報公開請求をした。そのような文書があって、もしも開示されれば、詳しいことがわかるだろう。

「第1次裁判権不行使」という理由で不起訴になるケースが多いことの背景には、「日本にとっていちじるしく重要と考えられる事件以外については第1次裁判権を行使するつもりがない」という密約があると考えられる。

日本平和委員会によると、法務省は昨年、同会の求めに対して、米軍関係者の罪名別起訴数・不起訴数の統計は1年間の保存期間を過ぎると廃棄しているとの理由で、「合衆国軍隊構成員等犯罪事件人員調」の2007年のデータだけを示した。

しかし、なおも「平和新聞」編集部が1953年以降の統計の開示を情報公開請求した結果、法務省刑事局公安課から「統計を記録しているコピーが見つかった」と知らせがあり、「合衆国軍隊構成員等犯罪事件人員調」(2001年~2008年)が開示されたのである。

同編集部に対して法務省刑事局公安課は、「2001年以前のものは、探したが、コピーも含めて残っていなかった」と回答している。
法務省によると、毎年の「法務省検察統計」は過去何十年分にもわたって保存されているという。それを見れば、日本人被疑者が大多数を占める全国の刑法犯の起訴率などの推移がわかる。
一方、「合衆国軍隊構成員等犯罪事件人員調」は保存期間が1年だけで、2001年以前のものはコピーも残されていないという。

「合衆国軍隊構成員等犯罪事件人員調」は、米兵犯罪の実態、日米地位協定の運用の実態を知るための重要な統計である。それがなぜ1年しか保存されず、廃棄されてきたのか。法務省の対処の仕方には首を傾げざるをえない。
つづく(文中敬称略)
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