1. 体制引き締め
今さら言うまでもないが、北朝鮮は金正日に極度に権力が集中した社会である。金正日は単なる「君主」のような存在ではなく、最重要な統治機関となっている。金正日ただ一人が国と社会を指導する「唯一指導体制」のためだ。金正日の「マルスム」(お言葉)は、無条件に従い執行することが求められ、法律よりも重い「掟」となる。

その金正日に「異変発生」したという事態に、北朝鮮の支配層は大変な危機感を持ったはずだ。もし健康悪化によって執務不能になったり死亡した場合、決定権をもつ機関が機能を停止するに等しいことになる。また「異変発生」の情報を、いつまでも秘密に伏しておくことは不可能、いつかは国民の知るところになる。体制の動揺を防ぐために、社会全般に対する統制を強める必要があったのは疑いない。

近年の市場経済の急速な拡大拡散によって、主に中国から資本主義の「退廃的」ファッションや情報が北朝鮮国内に大量に入り込んでいる。「北朝鮮式社会主義」に沿う美風良俗が強調されるのは、体制引き締めを図ろうとする当局の行動としては非常にわかりやすいものだ。

「女はズボンをはかずスカートをはけ、自転車にも乗るな」というのは、金正日の「マルスム」による直接の指示である。それを今あらためて貫徹させようというのは、取締りのシステムを点検・強化するという当局の意図があったはずである。

2.「『ポスト金正日時代』になっても北朝鮮は変わらない」という宣告
九四年七月の金日成の死後、「金正日時代」が名実ともに始まったわけだが、それから数年間の社会の大混乱によって、おそらく二〇〇~三〇〇万人の餓死者が出たと筆者は推定している。それから今日まで、ボロボロになった経済は回復の兆候は見えず停滞したままだ。そんな「金正日時代」は「失敗した一五年」であるというのが、一般庶民はもちろん、官僚や幹部に至るまでの北朝鮮国民の共通認識だと言っていい。中国やベトナムのように改革開放に踏み切ることができずに閉鎖体制を続けて、貧しく不自由な暮らしを強いて来たのだから、当然といえば当然である。

そして昨年、金正日が倒れたことをきっかけに、北朝鮮の人々は「金正日時代」が終焉に向かいつつあることを強く意識し始めた。「ポスト金正日」の時代に対して、社会と政治が変わること──具体的には改革開放に向かうことを期待し望むムードが、社会に一気に広がっている。体制維持を図りたい支配層にとっては、社会変化を待望する空気が拡がるのはきわめて危険なことだ。風俗・風紀を厳しく規制していこうというのは、「わが国は変わらない、金日成が建設し、金正日が受け継いだ『北朝鮮式社会主義』(首領絶対制)は、これからもずっと続き、改革開放もやらない、社会の変化など微塵も考えるな」という、支配層から人民への宣告なのではないかと、筆者は見ている。
(おわり)

吹き荒れる《風紀取締り旋風》1
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