左・合田創(自由ジャーナリストクラブ) 右・板橋洋佳(朝日新聞記者)

左・合田創(自由ジャーナリストクラブ) 右・板橋洋佳(朝日新聞記者)

(合田)
では、会場からの質問を続けます。
「記者としてなぜと疑問を持つことはたいへん重要であると改めて教えられました。この取材姿勢は板橋さん個人の自覚によるものなのか、それとも朝日新聞の記者教育なのか」
というご質問であります。

(板橋)
わたしは1999年に地方紙の記者になり、2007年2月から朝日新聞の記者になりました。率直にいえば、記者としての基本的なことを教えてもらったのは、地方紙のメンバーです。
では、朝日新聞からなにも教わっていないかといえばそうではなくて、下野新聞にいるときから朝日新聞の報道スタイルといったものを、新聞を読む中で学ばせてもらっているといえます。

今回の取材でいうと、見出しをつける人がいたり、デザインをして分かりやすく紙面をレイアウトしてくれる人がいたり、固有名詞など基本的な事実を校閲してくれる人がいたりと、そういう点において新聞社の力をあらためて実感しました。
わかりやすい文章をコンパクトに作るのは苦労の結実だとわたしは思っています。
また、9月21日の初報をきっかけに、連載企画をスタートするなどは組織としての力なのかなとも思います。もちろん、完璧だったと自己満足しているわけでなく、読者が知りたい情報にどこまで合致できたのかという反省もあります。

(合田)
新聞社ごとに、個人的に親しい検事はいるのでしょうか、という質問です。

(板橋)
私が知っている限りでは、「新聞社ごと」にはないと思います。
各々、個人と個人の関係性があってつながっていくものなので、外側からみると社ごとのようにみえるのかもしれませんが、結果的に向き合うのは個人と個人です。
組織として朝日新聞が大好きだから、朝日新聞の記者ならなんでも言うよ、という方はいらっしゃらないと思います。

(合田)
佐賀さんのご家族についての報道がほとんどみられず、娘さんのことがこれからも報道されないことを願っていますが、今後はどうでしょうか。

(板橋)
結論から言えば、ないと思います。
最近の報道では、ひとつの犯罪が起こったときに、事件に関与していない家族のことを伝えるべきでないという判断がありますし、今回のケースでいうと、大坪さんや佐賀さんのご家族がお二人の承諾なしに登場する機会はないと現場の記者として考えています。
この話の流れでお話させていただくと、人間としての悩み、内情についての取材が足りなかったと思っています。特に前田さんの場合がそうです。
改ざんに至った動機、組織からなにか求められていたのかもしれない、そのあたりの息づかい、生きざまが、今回の記事で伝えられなかった点です。
もちろん今回の最初の記事では、前田さんの改ざん行為そのものを証明することが最優先の課題だったので、心情面までは難しかったのかもしれませんが、取材に携わった者としては、結果として、埋まっていないピースだなと思っています。
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