左・板橋洋佳(朝日新聞記者) 右・石丸次郎(アジアプレス・インターナショナル)

左・板橋洋佳(朝日新聞記者) 右・石丸次郎(アジアプレス・インターナショナル)

(石丸)
前田さんはなぜあんなことをしてしまったのでしょう。ストーリーを作って、それに当てはめて、起訴に持ち込んでいくということに評価を得ていたと伝えられていますが、なぜ彼は証拠のデータを改ざんするまで追い込まれていったのか。
いまの段階で、なぜこんなことが起こったと思いますか。

(板橋)
特捜部のプレッシャーに耐えられなかった結果だったと思っています。特捜部長に、村木さんを事件にするのは君に与えられたミッションだ、といわれたという話です。
これが本当の動機だったのかといわれるとわかりませんけど。朝日新聞でも、この事件はお前が担当だ、といわれることもありますが、それを言った上司がすべて悪いのかといえば、それには少し違和感を持ちます。
やはり前田さんの気持ちに弱さがあったのかもしれません。

ただ、特捜部という組織の持つ雰囲気が現場の検事たちに与えるプレッシャーは相当なものなんだろうというのは感じます。逮捕して起訴するという自己完結型の組織は特捜部だけですから、独特の雰囲気や空気があるのかもしれません。
それは現場だけではなく、特捜部長や副部長にもあったのかなとも思います。

(合田)
それと関連してですが、紙面化するにあたって、たとえば前田さんへ直接の取材はしなかったのですか。

(板橋)
結論から言うと、記事の掲載前にはしていません。直接取材はしないという判断をしました。
理由はいくつかあります。
私たちが指摘するまで改ざん行為を調査にせず、むしろ検察内で隠そうとしている状況のなかで、記者が突然、当事者の前田さんに、「あなたやりましたよね」と言ったときに、前田さんが重要な証拠物であるパソコンを壊したり、あるいは逃亡したり、そういうことにつながってしまうのではないかというリスクを考えました。

もうひとつは前田さんへの直接の取材がなくても、客観的な証拠としてフロッピーディスクデータの分析結果と内部証言があれば、改ざん行為は十分に証明できると考えました。
もちろん、直接、本人の話を聞く場合もありますので、ケースバイケースです。直接取材をしないかわりに、検察の内部調査での彼の弁明を初報の記事に盛り込みました。

(合田)
今回は不正をスクープすることができたわけですが、紙面化に至らなかった、証拠が不十分で紙面化できずに取材が終わってしまったことは以前にありましたか。
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