大城市場をはじめとする他の市場の建設にあたっては、費用はすべてその市場で商売することを望む一般人から集められた。差し出すお金が無い人たちは壁にペンキを塗るなど労働力を供出したと、リ・サンボン氏は当時を振り返る。
公設市場は所在する地区の人民委員会商業管理課の市場管理部にある「市場管理所」によって運営されている。大城市場の場合には大城区域の人民委員会の管轄となり、地方の公設市場の場合は郡単位での運営となる。

市場を現場で管理するのが市場管理員だ。おもに六〇歳前後の軍隊経験者や定年退職者の男性で構成される。彼らが厳しく監視するのは、一つに、市場での商売が禁じられている未婚の若い女性の出入りだ(注2)。ただし女性の公民証に「既婚」の表示があれば取締りの対象にはならない。このため、商売を合法的に行おうと偽装結婚をする女性もいるとリ・サンボン氏は語る。

二つ目に、市場で扱ってはならない「統制品」の売買である。薬品や家電製品などで、後述する「収買商店」など、販売できる場所が定められている。三つ目に、「場税(ジャンセ)」と呼ばれる市場税を払っていなかったり、販売台を使用する権利を買わずに勝手に商売したりする人たちだ。市場管理員の給料・配給は市場管理所から支給されるが、その原資はすべて商人たちの「場税」である。そのため、市場管理員は必死になって場税を徴収するという。

市場の入口で目を光らせているのは市場管理員。

市場の入口で目を光らせているのは市場管理員。

(つづく)
注1 一九九四年七月に金日成主席が急死すると、内部に溜まりに溜まっていた政治的経済的な矛盾が一挙に噴出し、北朝鮮社会はパニック状態に陥った。秩序は乱れ行政機能は麻痺し、多くの国民が食糧とアクセスする手段であった食糧配給制は崩壊、ついに大飢饉が発生するに至った。この大パニック期のことを「苦難の行軍」と北朝鮮の人々は呼ぶ。編集部ではこの期間を、一九九五年から二〇〇〇年頃までと区分している。
注2 二〇〇六年以降、北朝鮮当局は既婚・未婚を問わず四〇歳以下の女性による市場での商売を厳格に取り締まると住民に通告。二〇〇七年一〇月ころには市場から若い女性の姿が消えたという。家庭の主婦以外の女性を、定められた職場に出勤させるためである。しかし現在は取締りが緩和されており、若い女性の姿も見かけるようになった。

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