北朝鮮当局は収買商店で取り扱う工業品などの商品を、一般住民が総合市場で売れないよう取り締まることで、役人や権力機関の幹部及び一部の特権商人の利益を保護している。収買商店は、北朝鮮で拡大する一方の市場経済における利権の一つになっているのだ。

一方、品物を納める(収買商店に卸す)人々にとっては、個人相手に商売を行うよりも得られる利益が少なくなる反面、取締りを避けられるという安全面での利点がある。せっかく仕入れた工業製品を、禁制品の所持、統制品の無許可販売と見なされ没収されてしまっては元も子もないからだ。

収買商店ではドルなどの外貨も使えるし、「内貨(ネファ)」と呼ばれる朝鮮ウォンも使うことができる。一般的に、中古品や食糧は朝鮮ウォンで、新品の電化製品などは外貨で取引されることが多いという。

収買商店と国営商店の現在の姿は、北朝鮮の社会主義計画経済が市場経済に蹂躙・圧倒されている現実を理解する上で重要だ。国営商店について言えば、過去、リムジンガンの記事(「金正日「異変発生」後の北朝鮮(3)-7 国営商業はなぜ失敗するのか」)で紹介した通り、今ではそこに並ぶ商品のほとんどは市場での取引の中で調達され、国定価格ではなく市場価格で売られている。

度重なる経済政策の失敗により、企業所に対し、国家が満足にエネルギーや資材を供給できないため、今ではほとんどの工場の稼動が止まり、商品が生産されていないためだ。国営商店はそれでも国家から課された売り上げノルマがあるため、品物を売らなければならないので、結局市場から品物を仕入れているのである。

こうして見ると、北朝鮮の国営流通機関である国営商店と、権力機関(とそれに連なる金持ち)の出先といっていい収買商店が、いかに市場経済に取り込まれているのかが分かるというものだ。市場が無ければ国営商店に品物は並ばず、市場で売ってはいけない統制品を定め取り締まらなければ収買商店は成り立たないのである。こうしたところにも、北朝鮮の民衆が参加して大増殖を果たした市場経済と、権力をもつ者たちの既得権益や国家機関との間の緊張関係を読むことができる。

キム・ドンチョル記者によると、二〇〇九年末の「貨幣交換(デノミ措置)」直後、食糧統制の復活を目論んだ政府は、市場での自由なコメの取引を禁じる一方で、コメを安い値段で買い上げ、食料品収買商店を通じて国民に販売しようとした。だが、これは政府に売ることにより損失が発生することを嫌った住民の非協力により、結局はうやむやになって終わっている。
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