Yoi Tateiwa(ジャーナリスト)

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【連載開始にあたって  編集部】
新聞、テレビなどマスメディアの凋落と衰退が伝えられる米国。経営不振で多くの新聞が廃刊となりジャーナリストが解雇の憂き目にさらされるなど、米メディアはドラスティックな構造変化の只中にある。 いったい、これから米国ジャーナリズムはどこに向かうのか。米国に一年滞在して取材した Yoi Tateiwa氏の報告を連載する。

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第1節 ウィッキーリークスと調査報道(8)
◆ アサンジの登場

この説明を待っていたかのように、司会者が場内を見た。

そして、「バーグマンの説明通り、きょうは特別ゲストが予定されている。ゲストはここには来られないが、スカイプで議論に参加する」と述べた。

すると、パネラーの後ろに控えていた巨大なスクリーンが切り替わった。そして、誰もいないどこかの部屋が映し出された。テーブルと椅子だ。しかし誰も座っていない。

司会者が「ジュリアン」と呼ぶ。すると暫くして細面で白い髪の毛が目立つ若い男性が現れた。ジュリアン・アサンジだ。場内から割れんばかりの拍手が沸き起こった。
「すまない。ちょっと警察の目を盗んで外出していた為、出て来るのが遅れた。FBIが焦ってイギリスまで来るのではないかと走って戻ってきた」

アサンジの第一声はジョークから始まった。スエーデンでの婦女暴行の容疑で、イギリスで知人宅での身柄勾留状態にあるアサンジ。アサンジの足首には逃亡防止の発信器が取り付けられており、警察の許可無く知人宅を出ることは許されない。

固唾をのんでアサンジの言葉を待っていた聴衆にとっては、いささか拍子抜けするような始まりだったが、その後にアサンジの口から発せられたのは、徹底したニューヨークタイムズ批判だった。

「ニューヨークタイムズには、最初に公電を報じる権利を与えることにしていた。しかし、彼らはそれを断ってきた。そして、我々に最初に流すように言ってきた。他社よりも最初に報道することにしのぎを削るジャーナリズムの世界では、極めて奇異な行動だ」

アサンジによると、公電の提供先として当初からニューヨークタイムズを考えていたのだという。暴露するのがアメリカの外交文書である以上、アメリカ社会に最も影響力の有るメディアを選んだという事だった。

しかし、本来は単独のスクープとなるべきところを、ニューヨークタイムズは自らの判断で後追いを希望したのだという。場内がどよめく。そして視線はケラーに集まる。しかしケラーは表情を変えずに沈黙を守る。
(つづく)

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