金正日と並んで座る金正男。80年代半ば撮影と思われる。金正男の伯母の成恵琅氏(後方左)が公開した写真。

金正日と並んで座る金正男。80年代半ば撮影と思われる。金正男の伯母の成恵琅氏(後方左)が公開した写真。

三代世襲は困難 「後継問題」に直面する北朝鮮政権 5

リュウ・ギョンウォン
権力後継が困難な八つの理由(承前)
[7]後継するのはボロボロになった朝鮮

◆破綻した経済
朝鮮の経済破綻は今や全世界が知るところである。その原因の筆頭が特権機関による経済分断にあることは、すでに述べた。
さらに具体的に見ていくと、朝鮮に独特の労働制度に大いに問題があることわかる。朝鮮の経済は「配給労働」と「動員」に基づいて成り立っている。

他の社会主義国では賃金労働が存在し、市場経済の国ほどではなくとも、労働者家庭でも貯蓄が可能であった。計画経済の下でも、少なくとも賃金労働によって私的な富を生み出すことができたわけである。

しかし、朝鮮経済における「配給労働」は絶対に家計において蓄積が不可能な前近代的な労働方式である(本特集の記事「拡大する市場に大統制始まる」を参照のこと)。
一方、「動員」は、家計にもそうであるが、企業の経済にとっても害悪である。

計画経済下の企業になんの保障もなく物資を供出させ、労働力を「動員」させるのは、前近代的な強制収奪に他ならない。
まさにこのような経済のやり方が、党と国防委員会による各種の「動員」なのである。現代社会において、このような生産方法で世界的な国家競争力を持つことなど想像することもできない。

時代遅れのまるで「奴隷制社会」のような生産方式をも継承したいという者がいるなら、これもまた世間の笑いものではないだろうか。

◆文化不毛の暗黒社会
人民に対する朝鮮労働党と国家の教育が失敗に終わったということは、全国推定一二ヶ所の教化所に溢れる約一〇万人の収容者と、各地に設置された革命化管理所、統制区域に追放された十数万の政治犯の実態を見ればよくわかるだろう。「もう言葉で教育する時代は過ぎ去った」というのが権力側の主張なのである。

主体思想という単一文化によって朝鮮社会は思想、学問、そして研究の一大不毛地帯と化した。世界で最も闇が深く不透明な、情報の暗黒社会なのがまさに朝鮮であるということは、誰もが知る二一世紀の常識である。

文化や観光の商品が溢れ、その需要によって経済も活性化されている現代にあって、観光どころか、国内移動の自由すら許されていないのが朝鮮だ。情報の流通が全く滞ったままの社会を継承するという困難に、後継者は向き合わなければならない。

◆不信に満ちあふれている社会
経済政策の失敗は結局のところ、党と国家が、人民と社会の支持を得られないということを意味する。
実際、朝鮮人ほど利発で勤労意欲の高い民族はいない。しかしその勤勉な人民をしても、隣国中国が経済成長によって得た一人当たりの所得には、足元にも及ばないだろう。

これまでの政策がどれほど人民の利益を無視したものだったか。党は大衆に背を向け、国家は人民に対して無責任であり、先軍政権は国民の信頼を失ってしまっている。
例をあげてみよう。一九八〇年代から、朝鮮では銀行に貯金をしても、預金者は自由な引き出しすらできなくなっていた。人民が政府や党にどうしようもない不信感を持つのも理解ができるではないか。

「嘘つきは針の穴に象を通さなければいけない」というロシアの諺がある。嘘をつく者はどんどん困難が大きくなるという意味だが、それはまさに今の朝鮮の姿である。
全国民が、お互いに疑心暗鬼になってばらばらになった世の中を、組織生活によって強制的に動かしていかねばならないのが朝鮮だ。こんな社会を統治しなければならないということも、後継者にとって大変な負担となるのは明らかだ。
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