[8]「後継候補者」たちの資質と能力不足
最後に、朝鮮における今後の権力の継承について、諸外国が現在想定しているいくつかの構図を、簡単に検討してみよう。
その一つに息子や家族から後継者が出てくるという見解がある。

金正日には金正男(キム・ジョンナム)と金正哲(キム・ジョンチョル)、金正雲(キム・ジョンウン)の三人の息子がいるとされる。もちろんこれは朝鮮の極秘事項である。

金正日の長男の正男の母親は南からの越北者出身で、次男、三男の母親は在日朝鮮人帰国者の出身だとされている。そして、三人の息子たちは全員が外国で育ち、外国の教育しか受けていない。

このようないわば「半外国人」の息子のうちの誰かが、新しい国家指導者になるのだとしたら、それは改革開放と呼ぶに値する事態だ!
となれば実子の後継説は、朝鮮的「階級闘争」の放棄を前提としなければならない。三人の息子たちの母親の出身成分は、「階級闘争」をやっている現在の朝鮮では警戒の対象とされており、最大の弱点とならざるを得ないからだ。

またこのほかに、ポスト金正日体制は、軍部による統治になるとする見解が存在する。先軍政治時代であるうえ、核兵器保有国であることを世界に宣言した状況では、あり得る見方かもしれない。

しかし、軍部の弱点は政権を動かしていく実力が無いところにある。朝鮮社会の全ての制度は党でなければ運営できなくなっている。軍部が経済の実態を握っているという説もあるようだが、朝鮮はそのような軍事命令で動く社会ではない。

もう一方では、張成沢(チャン・ソンテク)、呉克列(オ・グンニョル)、金英春(キム・ヨンチュン)、玄哲海(ヒョン・チョルヘ)のような金正日の側近を後継候補者に立てるという見解もあるようだ(注1)。

いかにも自由な環境の外国から出て来た発想であるが、これらの中に「一〇大原則」を解体、改訂する野心と力を持った者は見当たらない。今後も彼らの役割は、与えられた党や軍の仕事を実行する程度であり、それ以上のことはできないと筆者は見る。
(つづく)

注1 張成沢は金正日の実妹の金敬姫(キム・ギョンヒ)の夫で一九四九年生まれ。現在朝鮮労働党行政部副部長。
呉克列は労働党作戦部部長、大将。一九三一年生まれ。
金英春は前人民軍総参謀長、現在は国防委員会副委員長、一九三六年生まれ。
玄哲海は人民軍総政治局常務部局長、大将。一九三四年生まれ。いずれも金正日の側近である。

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