Yoi Tateiwa(ジャーナリスト)

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【連載開始にあたって  編集部】
新聞、テレビなどマスメディアの凋落と衰退が伝えられる米国。経営不振で多くの新聞が廃刊となりジャーナリストが解雇の憂き目にさらされるなど、米メディアはドラスティックな構造変化の只中にある。 いったい、これから米国ジャーナリズムはどこに向かうのか。米国に一年滞在して取材した Yoi Tateiwa氏の報告を連載する。

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第1節 ウィッキーリークスと調査報道(10 )
◆ 非営利団体による調査報道機関を創設した人物=チャールズ・ルイス

非営利ジャーナリズムの産みの親と言われるIRW代表でジャーナリストのチャールズ・ルイス(中央)

非営利ジャーナリズムの産みの親と言われるIRW代表でジャーナリストのチャールズ・ルイス(中央)

 

ここまで、去年カリフォルニア州のバークレイで開かれた調査報道についてのシンポジウム(Rava And David Logan Investigative Reporting Symposium)について伝えてきた。

そこで開かれたパネルディスカッションで、ニューヨークタイムズの当時の編集局長、ビル・ケリーがWLのジュリアン・アサンジから非難され続け、その状況に、観客席を埋めた多くのジャーナリストから歓声が上がったことも書いた。

実はその観客席の中に、1人、私がその反応を注視していたジャーナリストがいた。
チャールズ・ルイス(Charles Lewis)。

今、アメリカで調査報道を語る時、欠かすことのできないジャーナリストだ。ワシントンDCの名門ジョンズ・ホプキンス大学の大学院で国際関係を学び、ABCテレビで記者、その後、CBSテレビの調査報道番組「60ミニッツ」でプロデューサーを務めた。

しかし、そうした華麗な経歴よりも、その後に既存のメディアに見切りをつけ、非営利団体による調査報道機関Center for Public Integrity(以後CPI)を創設したことで知られる。このCPIは、後の非営利団体による報道機関という新たなメディアに道を拓いたとされる。

豊かな金髪とコケージアン特有のシャープな鼻筋が特徴のルイス。私の直ぐ右隣に座り、一言も発することなくパネルディスカッションを見つめていた。

ルイスは前年のこのシンポジウムでアサンジとともにパネラーを務め、調査報道について語り合っている。WLをジャーナリズムとして認めるのか?そもそも、アサンジはジャーナリストなのか?是非ともルイスの考えを聴きたいと思った。

私とルイスとはこの段階で、既に初対面ではない。シンポジウムで隣に座るだけの面識は有る。しかし、WLにしろ、アサンジにしろ、ルイスはその評価を安易に口にはしない。まさかパネルディスカッションに集中しているルイスに語りかけるわけにはいかない。そうこうしているうちにパネルディスカッションが終わってしまった。ルイスは、「お先に」と言って、直ぐに会場を出てしまった。

ルイスはシンポジウムでも人気者だ。空いている時間は、ほとんど誰かに話しかけられている。私などが、話しかける機会はなかなか訪れない。
結局、シンポジウムの期間中に、ルイスと話をする機会は得られなかった。そして私は、彼の今の職場であるワシントンDCに向かった。
(つづく)
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