「あなたは◆◆人だ」と誰かに言ってもらえたら

:脱北者としての自分のアイデンティティーについては、この8年でどのような変化がありまいたか?
:日本に来たばかりの頃は、脱北者であることを周囲に知られたくない、社会で浮いた存在になりたくない、早く日本の社会に溶け込みたいと、そればかりを考えていました。とにかく脱北者であることをかなぐり捨てたくて仕方なかったんです。

それが、大学に入って時間的余裕が出来、少し冷静に考えるようになりました。一回生のとき、帰国事業60周年ということで取材を受けたんです。それがきっかけで、帰国事業について、また、当時多くの在日朝鮮人が北朝鮮への帰国を望んだ日本社会の背景についても、より詳しく考えるようになりました。

北朝鮮にルーツがあるわけでもない、南朝鮮出身の在日朝鮮人が北朝鮮に渡ろうとしたのはなぜなのか。当時の日本には朝鮮人に働き口がなく、差別されたからなんだと知りました。

自分のルーツについて冷静に考えるようになったのはその頃からです。当時、私は既に韓国籍を取得していたのですが、ニューカマーの韓国人になりきって日本社会に溶け込むことも、脱北者である自分を消し去ることも、所詮無理なんだと感じるようになりました。

自分の背負う歴史、そして脱北者であるという事実からはどうあがいても逃げられないと気づいたのです。

:それで気持ちが吹っ切れて、楽になりましたか?
:もっとつらくなりました。じゃあ「自分はナニ人なんだ?」と悩みました。祖父母は植民地時代に済州島から日本に来ました。

そして両親は日本生まれ。私は北朝鮮で生まれ育って、中国での生活を経て、今日本にいる。「あなたは◆◆人だ!」と誰かに言ってもらえたら、どんなに楽かと思いました。

大学では、自分が脱北者であることを友人にも話せずにいました。授業も休みがちになり、思いつめた私は全財産をはたいて、ひとり旅に出ることにしました。韓国へ行きました。
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