「アリラン」は、学生や子どもを大量動員して観光の「見世物」にしている。写真は「アリラン」と称する前の1995年の集団体操。撮影 石丸次郎

「アリラン」は、学生や子どもを大量動員して観光の「見世物」にしている。写真は「アリラン」と称する前の1995年の集団体操。撮影 石丸次郎

 

◇観光の目玉、「世界一の大傑作」に酷使される子どもたち

北朝鮮で今月22日から、大規模なマスゲーム・芸術公演「アリラン」が始まった。2007年に規模の大きさからギネスブックに載り、北朝鮮当局が世界に類を見ない傑作と誇る。しかしその内容は徹頭徹尾、金父子礼賛パフォーマンスであり、動員される子どもたちは、勉強そっちのけで訓練に動員され、長時間の公演ではまともにトイレにも行けないなど、酷い扱いを受ける。人権侵害の温床と言っても過言ではない。この大マスゲーム初回から見続けてきた脱北者の記者・ペク・チャンリョンが実態を二回にわたって報告する。(訳リ・ジンス)

◇今年のテーマは金正恩氏の業績宣伝
北朝鮮の国営メディア「朝鮮中央通信」は7月5日付けの記事で、「アリラン」公演を次のように紹介している。
「10余年の歴史を誇る大集団体操および芸術公演である『アリラン』は、朝鮮の名曲と民俗舞踊、芸術体操と曲芸、素晴らしいマスゲーム、巨大な舞台装置と照明器具を調和させた、世界の芸術公演史上に類を見ない大傑作である」

同記事では続いて、今年の公演を「米帝を退けた金日成大元帥様の戦勝業績を示して、共和国を政治思想強国、人工地球衛星および核保有国、軍事強国として立ち上がらせた金正日大元帥様の先軍指導業績と朝鮮労働党の領導の下、富強繁栄する朝鮮の明るい姿を披露する場になる」と位置づけた。
しかし、「アリラン」公演の実態は、こうした大仰な北朝鮮メディアの宣伝とはかけ離れているというのが、筆者の考えだ。筆者は2002年のアリラン初演から脱北する2010年まで、毎年同公演を観覧すると共に、公演準備にも直接、間接的に関わってきた。

◇「アリラン」の目的は金日成、金正日親子の偉大性の宣伝
よく知られている通り、公演名の「アリラン」とは、朝鮮民族が昔から愛唱してきた伝統的な民謡であり、北朝鮮では特に、植民地時代に国を奪われた民族の悲しみと鬱憤を表現する代表的な歌と見なされてきた。

そのため、公演の冒頭は、植民地時代に、生きるため河を越えて異郷に向かう多くの人々を背景に、同歌が唄われるシーンから始まる。
そして公演は、植民地時代に国を奪われ塗炭の苦しみに陥った朝鮮民族に、抗日武装闘争の果てに国を取り戻してくれた金日成の業績を振り返ることからストーリーがスタートする。その後、朝鮮民主主義人民共和国が歩んできた歴史とともに、金正日の時代に至るまでの主要な歴史的出来事を並べ、展開されるのだが、いずれも金親子の業績を中心に構成されていくのが特徴だ。

「その昔、涙と悲しみにくれていた国家と民族が、金日成・金正日の時代になって、強大な国力を手に入れ、世にうらやむことのない生活を送れるようになった」という内容が繰り返され、「強盛富興アリラン」と「先軍アリラン」の二曲で公演は幕を閉じる。ひとことで言うと、「アリラン」は金親子がいかに偉大であるかを宣伝するための公演である。
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