「北朝鮮という影から逃げられない」(右:リ・ハナ)「そうだね。そこで生活したのも、あなたの一部だからね…」(左:辛淑玉)【撮影:玉本英子】

「北朝鮮という影から逃げられない」(右:リ・ハナ)「そうだね。そこで生活したのも、あなたの一部だからね…」(左:辛淑玉)【撮影:玉本英子】

 

◆ 中国での潜伏生活 怖くて声が出ない時期もあった

ハナ:中国語は、最初は怖くて使えなかった。日本だとちょっと日本語を間違えたりしても、「外国人だな」って思われるだけじゃないですか。日本語が違うだけで「あなたは不法入国者」って思われることなんてない。だけど中国では、私みたいなのが中国語が不自由だと、すぐに「脱北者じゃないのか」、「北朝鮮から来たんじゃないのか」と思われる。

どう見ても、着ている服を見ても、中国では私は韓国人には見えないんです。向こうでは韓国人は、「お金持ち」っていうイメージだから、私みたいに食堂でお皿洗いをしている人が、韓国人なわけがないのです。

そうすると、捕まってしまうかも、強制送還されるかもっていう恐怖が出てきて、言葉が出なくなるんです。見た目はそんなに変わらないので、しゃべらなかったらいいと思ってしまう。すると怖くてどんどんしゃべれなくなって、ある日声が出なくなってしまった。何かしゃべろう、しゃべろうと思っても、声が出ない時がありました。しばらくは、一言もしゃべらないまま一日が過ぎていく、そういう時期もありました。

怖くて中国語を勉強する意欲も、勉強する時間というのもないですし、教科書みたいなものもありません。でもなんとか言葉を覚えないと生きていけないと考えて、誰かからもらった辞書を一枚一枚ちぎって、それをおおっぴらに見ていると「なんで中国人が中国語を勉強しているの」と思われるので、ページをちぎって、普通の小説に挟んで...。

寮に住んでいるから、みんな雑魚寝なんですよ。自分の部屋というのもないので、寝るときに、小説を読んでいるように見せて、そうやってちょっとずつ言葉を勉強しました。日本では日本語ができないからといって、怪しまれることがないっていうのは、それだけですごい楽ですよ。
中国での暮らしというのは一日一日がどうなるか分らない。明朝、寝ている間に公安が来るかもしれない。常に気を張っているので、それが苦しかったです。

◆「絶対に捕まりたくない!」 生き延びるために

私、辛さんが中国に行かれたときの映像を見させていただいたんですけど、子供たちが市場で物乞いのようなことをしていたり、そういうのを見ていると、当時のことを思い出しました。
(2000年3月 辛さんは朝中国境に取材に行き、数多くの脱北者と対話した)

女の人はなんとかなるんですよね。売られるっていう悲惨なケースもいっぱいあるんですけど、自分が気をしっかり持てば、夜のお店で働くこともできますし、皿洗いだってできるから、なんとか生きていけます。でも、男の人は悲惨です。受け入れてもらえるようなところがなかなかなくて、結局は、生きるためにスリの組織みたいなところに入ったり、それで結局捕まったり、犯罪に走ったりすることになります。

そういうのがよくあったみたいで、「実はあの子はね」って噂でも聞いていました。そういう子って、諦めるのも早くて「なるようになれ」って自暴自棄になって、すごく危険なこともしようとする。女の人より男の人の方が悲惨な目に遭うことが多いと思う
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