◇自縄自縛で変われない政権 改革は困難か

元教員と秘密警察要員による異色対談の最終回。金正恩体制は、不正腐敗がシステム化してしまい自己変革も経済改革も困難だろうという二人。反体制運動にも悲観的な見立てを述べる。

○人物紹介
ハン・サンホ(仮名)30代半ばの男性。平壌出身で教育界で長く仕事をしてきた。日本在住の脱北者

チャン・チョルミン(仮名)咸鏡北道生まれ。軍服務の後2010年の脱北時まで国家安全保衛部(情報機関)で勤務した。韓国在住

司会 石丸次郎「北朝鮮内部からの通信・リムジンガン」編集長

(参考写真)「敬愛する金正恩同志のお言葉と指示を無条件に徹底して貫徹しよう」というスローガン。金正恩氏への忠誠強要が進んでいる。2012年11月新義州市にて撮影 アジアプレス

(参考写真)「敬愛する金正恩同志のお言葉と指示を無条件に徹底して貫徹しよう」というスローガン。金正恩氏への忠誠強要が進んでいる。2012年11月新義州市にて撮影 アジアプレス

 

石丸:金正恩氏は独裁政権がいったん世襲したわけですが、「独裁の高度化」、つまり「首領絶対制」をやめて、昔の韓国のような軍人出身者による「開発独裁」型や、ビルマのような「軍事独裁」に移行する可能性についてどう思いますか?「首領絶対制」では、金一族の神話や、出来もしない「北朝鮮式社会主義」に拘泥せざるを得ず、経済合理性を無視せざるを得ない。
強力なリーダーシップのもとで市場主義を原則に経済発展目指すことは不可能でしょうか?

ハン:朝鮮はその時期を逃がしたと思います。何らかの改革をしようとする場合、今いる幹部がその地位を譲るか放棄することになります。過去、北朝鮮には労働者、農民、インテリという、社会の中心階級がありましたが、今では金一族とそのおこぼれを貰う党幹部たちが、現代版の「上流階級」としてのさばっています。彼らが黙ってはいないでしょう。「首領絶対制」を放棄すれば政権維持すら難しくなると思います。

石丸:では、「首領絶対制」をそのままにして経済のみ自由化を進めるということは可能でしょうか?北朝鮮は、建前上税金のない社会です。だから人民から搾取・収奪するしかない。皆が自由に自分で働いて稼ぎ、税金を納めるシステムにすれば、国庫も潤うはずです。

ハン:今の北朝鮮社会は経済基盤がすべて崩壊していると言っても過言ではありません。これを立てなおすのも大変です。それに体制が「不正」で運営されているという点を忘れてはなりません。教員は学生から、保安員(警察)は一般民衆から、幹部は部下から賄賂を貰って生きているのに、こうしたシステムを変えられるか疑問です。

チャン:私も同じ考えです。北朝鮮は「賄賂体制」とでも呼ぶべきシステムが発達しています。もちろん人びとが自由に稼げるようになればよいのですが、仕事もせずに、賄賂だけで生きてきた人々(幹部)が反対するでしょう。

ハン:金正恩が言うように「能力にしたがって稼げ」という場合、一番大変なのは、党の幹部職員たちなんです。経済部門の人々はまだなんとかするかもしれませんが、政治思想を取締り、処罰して生きてきたような連中は、お金を稼ぐための何の技術もありません。彼らは代々、幹部の出身成分で、楽に生きてきた人たちなのです。
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