独立系・フリー・市民がターゲットになる
多くの人が「特定秘密保護法」の問題として指摘しているのが、この「隠蔽」の部分であるが、筆者は「遮断」の意図の危険性にも注目して欲しいと思っている。条文には、さすがに直接的な検閲の匂いはないが、記者や市民の発信は大きな制約を受け、処罰を受ける危険性がある。

例えば筆者が沖縄駐留の米軍が、不法で危険な訓練をしていることをキャッチして、市民と協力して取材を始めたとする。それが「特定秘密」に指定されていることを知りながら、取扱い業務を担う民間業者に「大切な問題だから、取材に応じ話してください」と粘り強く説得した。これは、法案24条で「教唆・扇動」に問われる可能性がある。

要するに、「話すようにそそのかした」とされて罪になるかもしれないのである。また、一緒に説得に当たった人は「共謀」したとみなされる可能性がある。結果的にその民間業者が取材に応じず、何も喋らなかったとしても、この説得行為自体が不法だとされる危険性すらあるのだ。量刑は五年以下の懲役である。
法案には「国民の知る権利の保障」「報道又は取材の自由に十分に配慮」という一項が入ったではないかという反論が出るかもしれない。だが、
「出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、専ら公益を図る目的を有し...」
と但し書きがある。「公益を図る目的」かどうかを決めるのは権力だ。無名のフリー記者や市民記者の発表の場がネット媒体やミニコミ紙などなら、報道活動とみなされない事例が出てくるだろう。

記者は「調べること」と、それを「届けること」を仕事としている。それを罪に問うことができるというのが、この度の「特定秘密保護法」の怖さである。

ひとつひとつの事案を罪に問えるか否か、まず決めるのは警察だ。報道活動とは言えないと判断すれば、とりあえず、逮捕拘留し事務所を捜索することだって可能だ。結果的に不起訴になったとしても、逮捕されるだけで大打撃である。

摩擦熱帯びるのは沖縄
もっとも「秘密に付したい案件」の多い都道府県は沖縄であるかもしれない。例えば、米兵の犯罪、米軍基地の土壌汚染の問題、米軍が持ち込んだ兵器の種類、米軍のヘリや戦闘機の墜落事故などに絡む事項は「特定秘密」とされるだろう。

また沖縄県には尖閣をめぐる問題もある。台湾、中国との国境海域での外交的、軍事的緊張の実態や水面下の交渉も「特定秘密」になるかもしれない。尖閣水域で漁を認められた台湾漁民との間でトラブルが起きても、「特定秘密」とされるかもしれない。

ジャーナリズムとは、闇の中に埋もれた事実に光を当てて、世に知らせる営みのことである。その営みは、何も大新聞社やテレビだけの専有物ではないし、それを担う特権が彼らだけに与えられているわけでもない。ジャーナリズムは市民が誰でも参加できる営みであり権利である。

「国益」を名分にして隠し事を増やそうという権力と、それを世に出そうという報道活動は、沖縄において激しく擦れ合って熱を帯ることになるだろう。
(11月12日付琉球新報に掲載された原稿に加筆修正したものです)

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