栄養失調で護送される人民軍兵士の一団。金正恩政権は財政難で軍人も食べさせられなくなっている。 2011年7月平安北道 キム・ドンチョル撮影

栄養失調で護送される人民軍兵士の一団。金正恩政権は財政難で軍人も食べさせられなくなっている。 2011年7月平安北道 ク・グァンホ撮影

 

現在の北朝鮮では、人民軍兵士に栄養失調が蔓延し、教員や鉄道労働者、国営企業労働者の大部分にもほとんど食糧配給を出せないでいる。だが、これは食糧難を意味するわけではない。国の財政難=外貨不足によって、体制運営に必要なはずの配給対象に支給する食糧が確保できていないのである。

今の北朝鮮では、食糧の絶対量が不足しているわけではない。全国どこの公設市場でも、現金があればコメも肉も好きなだけ購入することかできる。実際、食糧配給が途絶えて10数年になるのに、国営企業の労働者たちは、商売行為や日雇い労働で現金を得て、市場で食べ物を購入して自力で暮らしている。市場にはコメがあるのだ。ただし、それは国家保有米ではなく、民間保有米である。

金正恩政権は、優先配給対象に回すコメが足りなければ、輸入すればよい。しかし金正恩政権は発足以来、貴重な外貨収入を、金父子の新たな銅像制作や、平壌の高層アパートや遊園地、イルカショー施設、スキー場建設と維持費などに費やしてきた。言うまでもなく、核・ロケット開発などにも投入して来た。そのため、国家は外貨が足りず、兵士を食べさせる食糧確保すらできなくなっている。

日本による食糧支援は、購入費用を浮かせる効果を生む。金正恩政権にとって現金をもらうとのと同等の効果が見込めるわけだ。浮いた金を核開発に使おうか、遊園地の建設に使おうか、それは金正恩政権が決めることができるのだ。これを韓米は心配をしているのである。

「人道的見地」を言うのであれば、苦難に喘いでいる北朝鮮の民衆にこそ手が差し伸べられるべきだ。資金流用の恐れが小さく人道支援にふさわしいのは次のような物資の提供だろう。
乳幼児、妊婦、高齢者向けの栄養食、清潔な飲料水を確保するための消毒薬、井戸を掘るためのポンプ、結核、赤痢、チフスなどの伝染病の薬、ダニや南京虫駆除のための殺虫剤、石鹸、包帯、ガーゼ、手ぬぐい、手術用品、頻発する天災に備えた毛布、テントなどだ。

今回の北朝鮮の再調査は非常に速いペースで進み、早ければ6、7月にも安倍首相の訪朝がありうるという情報が巡っている。拉致問題は、これまで10年間、1ミリも動かない膠着が続いた。事態が速く、そして着実に進展するために、政府は「見返り」について説明を尽くし透明化を図るべきだ。

政府が5月29日に発表した日本と北朝鮮の合意文書全文は次の通り。

双方は、日朝平壌宣言にのっとって、不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、国交正常化を実現するために、真摯に協議を行った。

日本側は、北朝鮮側に対し、昭和20年前後に北朝鮮域内で死亡した日本人の遺骨および墓地、残留日本人、いわゆる日本人配偶者、拉致被害者および行方不明者を含む全ての日本人に関する調査を要請した。

北朝鮮側は、過去北朝鮮側が拉致問題に関して傾けてきた努力を日本側が認めたことを評価し、従来の立場はあるものの、全ての日本人に関する調査を包括的かつ全面的に実施し、最終的に、日本人に関する全ての問題を解決する意思を表明した。

日本側は、これに応じ、最終的に、現在日本が独自に取っている北朝鮮に対する措置(国連安全保障理事会決議に関連して取っている措置は含まれない)を解除する意思を表明した。

双方が取る行動措置は次の通りである。双方は、速やかに、以下のうち具体的な措置を実行に移すこととし、そのために緊密に協議していくこととなった。
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