これらの計量分析が示唆することは,援助資金のファンジビリティはその程度が分野によって異なるということである。また、複数の分野への複合型援助である「マルチ・セクター型援助」と途上国側の政策改善を求める「プログラム型援助」を比較してみると、前者では軍事部門への流用度が3.63ドルと高いのに対して、後者ではマイナス0.32ドルとなっている。

このことが示すことは、緊縮財政政策などを融資条件とする場合が多いプログラム型援助においては、非生産部門に流用される可能性が低くなっているのに対して,様々な分野の利害が複雑に絡む「マルチ・セクター型援助」においては,ドナー(供与者)側による財政面での縛りがほとんどないため,ドナー側が意図せざる方面(例えば軍事支出)への流用が結果として起きてしまうことが示唆される。
(論文「平和構築における財政的影響: ファンジビリティ再考」(2008年),「開発と平和 脆弱国家支援論」75~89頁(有斐閣2009年))

簡単に言うと、「脆弱国家」への支援は、対象国の軍事支出の増大を招く可能性があり、それが紛争勃発やさらなる脆弱化につながる危険性があるというものである。もちろん、大門によるアフリカ諸国の研究が、すぐそのまま現在の北朝鮮に当てはまるものではないが、今後の援助の方策を考えるときに示唆するものは大きいと考える。北朝鮮に対する具体的な支援の課題については、次章で詳しく触れる。(続く)

参考文献
「グローバリゼーションと国際開発研究」「脆弱国家の開発戦略」 (財団法人 国際開発高等教育機構 2008年)
「脆弱国家」への援助の経験と教訓の概観(JICA研究所2008年)
「脆弱国家」への支援の方向性について(JICA研究所2010年)
「DAC脆弱国支援取組原則」への日本のインプットと東日本大震災への適用 (福田幸正
(公財)国際通貨研究所2011年)

韓国語文献
「취약국가 모델과 북한에 대한 개발협력 연구」(脆弱国家モデルと北韓に対する開発協力研究) (이조원, 2009)
「북한의 정상화국가를 위한 국제사회의 지원방안」(北韓の国家正常化のための国際社会の支援方案)(통일연구원, 2010)

※本稿は関西大学経済・政治研究所「セミナー年報2014」寄稿した拙稿「『脆弱国家』北朝鮮への人道支援はどうあるべきか ~役立つ支援と有害な支援~」に加筆修正したものです。
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