◆消え失せた「5割増し」安全率

もう1つ外山氏の指摘で重要なのは、過去のリスク評価が(アスベスト以外の繊維を含む)「総繊維濃度で実施」されているということだ。

前述したように、市は「安全側」に立ってアスベスト濃度よりも高い数値である総繊維濃度を「仮定濃度」に採用し、実測されたアスベスト濃度より「約5割増し」だと説明してきた。

ところが、過去のリスク評価がもともと総繊維濃度で実施されてきたのであれば、「約5割増し」の“安全率”は消し飛んでしまう。最初から市のシミュレーションは「安全側」になど立っていなかったことになるのだ。ちなみにこの「5割増し」との説明だが、じつは一律ではない。もう1つの「仮定濃度」である2013年12月13日午後3時10分から同4時3分までの測定値ではアスベスト濃度は100本/リットルだが、総繊維濃度は110本/リットルであり、1割増しでしかない。最初から「安全側」で「5割増し」との説明は水増しされていた側面がある。

さらにいえば、現在実施しているシミュレーションの想定にも問題がある。そもそも名古屋市のシミュレーションでは1100本/リットルの総繊維濃度をほぼ最大値となるよう想定しているのだが、科学的根拠がないことは市営繕課も認めている。

一般的に除去作業の開始から1時間半から2時間ほどで現場内のアスベスト濃度が上がりきるといわれており、検討会では明確に説明や議論がされていないが、そうした想定でシミュレーションを実施している。しかし、除去業者側は作業開始は現在想定されている8時半より遅かったと主張しており、それが事実だとすると、濃度はさらに上昇した可能性がある。

委員の1人も「作業記録からいうとまだこれは、実際に作業、除去工事を始める前ということに一応なっていますね。もし本当にそうで除去工事を始めてから更に高くなっていることも考えなくてはいけない」と指摘している。(第2回検討会議事録

シミュレーション条件を議論している第5回検討会でも委員から「このような工事の時に作業を開始してから作業場内の石綿繊維の濃度がどのように上がって下がっていくのか、一様の作業が行われていたとしても蓄積していきますから、気中では濃度が増加していく。いい方法があるかわかりませんが1100本/リットルで一律としてしまうことの是非は考える必要があるのではないでしょうか」と意見が出ている。

作業内容によってアスベスト濃度は増減する。当然のことだ。だが、測定データが少ない以上、科学的な評価がそもそもきわめて困難という事情がある。

前出・外山氏は今回のような測定データそのものが少ない場合のリスク評価の難しさをこう語る。

「アスベスト濃度は作業によって増減しますし、今回の件では実際にまだ上がりきっていない可能性もあります。難しいのは現在ある測定値が代表値なのかわからないこと。代表値でないなら、安全値として数倍するといった手法もあります。新潟県佐渡市の事例では、測定値がまったく存在しないため、過去の似た測定値を持ってきて『不確定な要素があるわけだから、いっそ10倍にしてしまえ』と。データがないからそれくらいしかできないわけです」

もはや科学的ではないが、基礎データがなければ、そのくらいしかできないというのは事実だろう。名古屋市のような水増し込みで「5割増し」などいうセコい安全率とは大違いである。

市交通局営繕課の濱田祥孝課長に尋ねたところ、「検討会の委員からそういった意見がでれば、当然そういったことも考慮にいれていく」と回答した。

9月16日に開催される検討会でそうした取り扱いがどうなるのか。より「安全側」に立った評価となるのか検討会の存在意義が問われている。(井部正之)

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