◆最悪の想定せず「低リスク」と“安全宣言”

2013年名古屋市営地下鉄・六番町駅で起きた超高濃度のアスベストが飛散する事故をめぐり2016年12月12日、同市が開催した事故の健康影響を調べる検討会は意見書を発表。この飛散事故によって駅利用者に中皮腫などのがんが増えるリスクは「環境目標値を下回っていた」との“安全宣言”を出した。しかし、最悪の事態を想定しないままでよいのだろうか。(井部正之)

高濃度のアスベストを検出した地下鉄六番町駅の構内。(2013年12月撮影・井部正之)

高濃度のアスベストを検出した地下鉄六番町駅の構内。(2013年12月撮影・井部正之)

一般的にアスベスト除去では作業開始から2時間程度現場内のアスベスト濃度が急上昇し、その後は作業内容によって変動するといわれている。市が委託して実施したシミュレーションでは試料採取を開始した午前9時15分段階で基本的に最高濃度に達し、その後はその濃度が午後5時ごろまで続いたと想定した。その後、清掃作業でアスベスト濃度が高くなると考慮したのか、午後6時まで若干濃度が上昇すると見込んでいる。

しかし、実際には12日午前10時15分以降、アスベストの濃度が本当に午後5時ごろまで同程度で推移したのかは不明だ。

現状で当日のアスベスト濃度に関する判断資料として六番町駅アスベスト飛散にかかる健康対策等検討会(座長:那須民江・中部大学生命健康科学部教授)で明らかにされたのは

(1)この事故ではアスベストを除去し、除去現場内を負圧に保つ負圧除じん装置の不具合が確認されており、12月12日午前8時半の作業開始からずっと駅構内にアスベストが漏えいしていたとみられること

(2)上述の12日午前9時15分から同10時15分の測定結果、1リットルあたり700本(総繊維で同1100本)しか存在しないしないこと──くらいしかない。そのため、市交通局も「空白の1日半」における濃度の想定に科学的根拠はないことを認めている。

そもそも施工業者はアスベスト飛散の事実を認めず、測定ミスなどを主張した。現場に設置されていた負圧除じん装置に隙間があり、アスベストをたれ流しにする構造だったことが市が委託した調査で判明しており、両社の主張はあり得ないことだ。とはいえ、そうした意見の対立から、検討会では事業者側から十分な聞き取り調査が実施できず、そのため、当日の作業内容の詳細は不明となっている。

飛散事故の責任逃れのためかもしれないが、当日の作業記録では午前11時半まで除去は始めていないと記載されていたという。除去作業を始めていない準備段階で1リットルあたり700本ものアスベストが飛散していたとすれば、作業を始めたらいったいどれだけの濃度となるのか。さすがにそれはあり得ないと検討会や市は判断したのだろうが、結局明確な裏付けは検討会の中で示されないまま、そうした可能性は排除されている。

しかもシミュレーションでは負圧除じん装置を作動させた当日午前8時半からすぐアスベスト除去を開始したとの想定のようだが、実際にどうだったかはわかっておらず、なぜそのような判断となったのかも不明なままだ。現場には当日6人の作業員がいたそうだが、8時半から全員がいっせいに吹き付けアスベストの除去を始めたのかどうかも不明だ。

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