通常アスベストの除去では、飛散を抑えるために飛散防止剤を散布しつつ作業する。検討会ではこれをを使っていなかったと結論づけたが、現場では飛散防止剤の空き缶が1つ見つかっており、実際には水で薄めて使用されていた可能性が捨てきれない。仮に水や水で薄めた飛散防止剤を使った湿潤などをしていたとすれば、常時6人による除去ではなく、少なくとも1~2人が散水するといったことがあってもおかしくない。その後、散水していた作業員が除去に加わったとすれば、現場内の濃度はさらに上昇する。周辺への飛散も同様である。

1999年に東京都文京区の区立さしがや保育園で起こったアスベスト飛散事故では、事故後に飛散実験など実測をともなう調査を実施しており、報告書には5時間あまりにわたってゆっくりアスベスト濃度が上昇するというシミュレーション結果も収録されている。こうした実例がある以上、さらに濃度が上昇していたとしてもおかしくないだろう。

結局、測定データが存在しないため本当のところはわからない。だが、現在想定されている「現状維持」よりも濃度が上がった可能性が十分考慮されないまま切り捨てられたのは間違いない。最悪の事態を想定した検討をしない健康リスク評価が適切だといえるのだろうか。

最終回となった会合で市交通局の浅井慶一郎技術本部長は「意見はしっかり検討して、きちんと対応していきたい」とあいさつして締めくくったが、白々しく聞こえてならなかった。つづく【井部正之】

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