公職選挙法違反で刑事告発された自見英子参院議員。大阪万博の担当大臣だ。自見英子事務所FBより

9月13日に行われた岸田内閣の内閣改造で初入閣した自見英子(はなこ)万博担当大臣ら3人が、買収などの公職選挙法違反で刑事告発された。自見大臣は2022年の自身の参議院議員選挙において、選挙運動の報酬として支払うべきものを選挙運動収支報告書に記載しなかったと指摘されてもいる。(フリージャーナリスト・鈴木祐太

◆無報酬が原則なのに約589万円も支払い

告発されたのは自見大臣と出納責任者、そして、「政治を必要な人に届ける広告会社」を標榜する「POTETO Media」の代表の3人。

告発状によると、自見大臣は22年7月に行われた参議院選挙で、「POTETO Media」に選挙コンサルタント業務を約589万円で委託した。委託を受けた「POTETO Media」は、選挙中を通じて動画の編集などの業務を請け負った。

その内容一部が請求書からわかった。

「1日ダイジェスト動画【1日ダイジェスト30秒当たりの金額。YouTubeライブ配信サポート等】」が単価30万円で11本を制作している。

「最後のお願い動画」は単価79万円で一本制作。合計で約589万円となっている。請求書の件名は「参院選期間サポート」であった。

公職選挙法では、選挙運動においては原則、無報酬で行うことを前提としており、いわゆるウグイス嬢など一部の仕事にしか報酬を認めていない。

自見大臣の資金管理団体「ひまわり会」が約589万円を寄付したことに訂正された選挙運動収支報告書。

◆「主体的・裁量的に選挙運動の企画立案は選挙運動」と総務省

自見大臣の資金管理団体「ひまわり会」が約589万円を寄付したことに訂正された選挙運動収支報告書。

総務省の見解は次のようなものである。

「一般論としては、業者が主体的・裁量的に選挙運動の企画立案を行う場合には、当該業者は選挙運動の主体であると解されることから、当該業者への報酬の支払いは買収となるおそれが高いと考えられます」

「POTETO Media」では、「参院選振り返りレポート」なるものを作成しており、自見大臣を当選させるためにどのような狙いと戦略をたてたのか、そしてその戦略がいかにして当選に結び付いたのかが記載されている。

このレポートを読む限り、「POTETO Media」が自見大臣の選挙を「主体的・裁量的に選挙運動の企画立案」していたことが明らかだ、と告発状では指摘している。

「POTETO Media」が自見議員あてに作ったもとの請求書の件名は「参院選期間サポート」であったが、「ひまわり会」あてに別途に領収書を作った。動画作成費用と但し書きがある。

◆選挙運動収支報告書に「POTETO Media」への支払い記載せず

「POTETO Media」が自見議員あてに作ったもとの請求書の件名は「参院選期間サポート」であったが、「ひまわり会」あてに別途に領収書を作った。動画作成費用と但し書きがある。

選挙にかかる費用は、選挙後に選挙管理委員会に提出する選挙運動収支報告書に記載しなければならない。しかし、自見大臣は選挙運動収支報告書に「POTETO Media」に支払った経費を記載しなかった。

刑事告発をした上脇博之神戸学院大学教授は次のようにコメントした。

「業者が立候補者側から個々具体的な指示に従って、裁量の余地のない状態で動画を作成した場合には、その業者に報酬を支払っても公選法はそれを例外的に許容しています。しかし、業者が主体的・裁量的に選挙運動の企画立案まで行って動画を作成していたら、その業者は選挙運動者になり、その業者に報酬を支払えば公選法違反の買収罪に該当しますし、その業者は公選法違反の被買収罪に該当します。

 『POTETO Media』は主体的・裁量的に選挙運動の企画立案を行なうサービスを売りにしている業者ですし、作成した『参院選振り返りレポート』の内容を見ると、主体的・裁量的に選挙運動の企画立案を行なっていたことが良くわかります。

だからこそ、『POTETO Media』に支払われた報酬はあまりにも高額すぎる約589万円だったのでしょうし、それがバレないように選挙運動収支報告書に記載しなかったのでしょう」

2022年の参院選で「POTETO Media」が制作したユーチューブ映像。自見大臣の公式チャンネルより。

◆5月に告発されていたのに自見議院を大臣にした岸田首相

2022年の参院選で「POTETO Media」が制作したユーチューブ映像。自見大臣の公式チャンネルより。

今回の事件は週刊新潮が昨年12月にスクープ報道した後、選挙運動収支報告書は訂正された。しかし上脇教授が情報公開したところ、その訂正は驚くべきことに、自見大臣の資金管理団体「ひまわり会」が約589万円を寄付したことになっていた。

上脇教授は次のように指摘する。

「請求書の件名は『参院選期間中サポート』だったのに、請求書の但し書きには「動画作成費用として」と明記され、宛名も『ひまわり会』になっていました。自見候補の選挙運動のためではなく、『ひまわり会』の政治活動のためだと偽装する予定だったわけでです。しかし、週刊新潮の報道で収支報告書を訂正せざるを得なくなったのです。

組織的で悪質ですし、買収・被買収は選挙の公正を害するので極めて重大な犯罪ですから、私は、自見議員らが選挙運動収支報告書に記載せず領収書の写しを添付しなかった犯罪を含め公選法違反の容疑で、自見議員、同議員の出納責任者及び『POTETO Media』社長の3名を、今年5月29日付告発状で東京地検に告発したのです。 

そのことは、先月出版した私の単著『なぜ『政治とカネ』を告発し続けるのか』(日本機関紙出版センター)で紹介しました。それなのに、岸田総理がそんな自見議員を新大臣に任命したことに呆れています。先日加藤鮎子衆議院議員を新大臣任命直前に政治資金規正法違反で告発しましたが、自民党には犯罪と無縁の議員はなかなかいないのでしょうかね?」

今回の事件は週刊新潮の報道がなければ、今もまだ闇に葬られたままの状態だっただろう。民主主義の根幹である選挙において、起きてはならない出来事だ。事実ならば、自民大臣の当選の正当性すら疑われる事態であり、今回の大臣就任の正当性もまた、疑われることとなるだろう。

 

■ 鈴木祐太 (すずきゆうた)
1981年香川県で生まれ。岡山、大阪で育つ。大学在学中から貧困状態にある子どもたち、特に被差別部落や在日外国人の子どもたちへの支援に関わり、小学校講師、派遣社員などを経てジャーナリズム活動を始める。フロントラインプレス所属。

 

 

 

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