◆2カ月の曝露で認定のケースも

公判で弁護団はおおよそ2つの点を主張した。

1つめは中皮腫被害の特異性である。中皮腫被害は肺がんや石綿肺といったほかのアスベスト関連疾患と違い、少ない量の曝露でも発症する。どれだけの曝露までなら被害がでないとの閾値は存在しない。そのため、微量の曝露によっても発症の危険がある。

こうしたことから、「医学的判断にかかる検討会でも、中皮腫曝露の確からしさがあれば、労災認定して差し支えないと報告している」「2カ月程度の石綿曝露であっても中皮腫との相当の因果関係が認められて(労災認定して)いる場合もある」ことを指摘。

「アスベスト曝露を受けたかどうかが重要であり、当該場所での曝露が立証されていれば、ほかの場所での曝露との反論がない場合、(労災認定)相当とみるのが通常である」

2つめは実際にアスベスト曝露が1年という認定基準を超えているとの主張だ。

愛知淑徳学園では学校の増改築が繰り返され、宇田川さんが働いていた34年間でそうした工事は計14回に及ぶ。すでに述べたようにそのうち3分の1程度の設計図書しか開示されていないわけだが、弁護団はうち3つの工事を詳細に調べ直した。

たとえば中高管理棟増築工事では4カ月間内装工事が実施された。当時は、アスベスト対策は皆無だったため、この工事においても大量の石綿粉じんが発生、飛散した。加工や切断作業で発生したアスベスト粉じんは発生場所から風下20メートルでも明らかに高濃度だと過去の実験データなどから説明。

工事場所から宇田川さんが授業をしていた校舎は最短距離がわずか10メートルで、校舎にあった渡り廊下からはさらに近かった。廊下はバルコニー状で外気がそのまま入ってくる構造だった。しかも宇田川さんは冬場でも窓をしばしば開けて授業をしていた。さらに当時の風向きは工事場所から宇田川さんのいた校舎に向かう北向きの風が全体の65%を占めていた。当然、アスベスト粉じんは風に乗って廊下に入り、廊下の窓から教室内に入るため、そこで曝露する。

「総合考慮すれば、おおむね北方向の流れで、本館や各教室内に(アスベスト粉じんが)飛散し、曝露していたと考えることが相当です。被災者はこれにも4カ月間曝露していたと考えられます」

こうして3カ所の工事による曝露を積み上げ、「被災者は少なくとも3カ所の工事で合計15カ月間、石綿粉じんに曝露していました。したがって、労災認定基準の1年を充足することは明らかです」と弁護団は主張した。
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