それを受けて当時の表現の自由に関する特別報告者であったフランク・ラ・ルー氏(グアテマラ)が国際人権基準に照らして「秘密保護法は透明性を脅かす」「秘密に指定できる定義があいまいである」「ジャーナリストにも重大な刑罰が課される危険性がある」などの問題点を指摘した公式声明を2013年11月22日に政府に対して発表した。

その数日後の12月2日には国連での記者会見で当時の人権高等弁務官のナビ・ピレイ氏が「懸念が残るなか成立を急ぐべきではない」と厳しい指摘をした。

この公式声明について国会で安倍首相は「だいぶ誤解しているようですね」と答弁し、ピレイ発言には自民党の城内議員などが激怒し、罷免要求や拠出金差し止めなどをすべきだと言ったと伝えられている。実際その後、日本政府は人権高等弁務官事務所への拠出金の支払いを1年間止めている。

これらの秘密保護法への勧告は国際人権基準に基づくもので、ラ・ルー氏の後任者のケイ氏も同様の懸念を引き継ぎ、ケイ氏は2016年4月の公式訪問でも時間を割いて政府当局にも聞き取りをしたが、「懸念は払しょくされなかった」とした。

例えば、秘密保護法25条は、特定秘密の漏洩ないし特定秘密の取得を目的として,人を欺き, 人に暴行を加え,若しくは人を脅迫する行為により,又は財物の窃取若しくは施設への侵入により,他者と共謀し,教唆し,又は煽動した者は5年以下の懲役に処する旨規定している。日本政府は25条が規定する重大な刑罰をジャーナリストに適用する意図はなく、また,ジャーナリストが情報を開示しても,その情報が公的な関心事項であり,ジャーナリズムを誠実かつ合法的に追求する中で得られた情報である限り,罰せられないというが、それなら法律を改訂してそのように明記するべきである、と勧告している。

ケイ氏は公式訪問で秘密保護法以外にも多様な問題を調査し、2017年5月末に公表された訪日報告書(※2)に勧告が盛り込まれているが、その一つが「メディアの独立」についてである。放送法4条は、放送事業者が番組の編集にあたって守るべき「政治的公平性」などの倫理規定を定めているが、2016年2月高市総務大臣は「政治的公平性」を欠く放送を繰り返した場合の電波停止の可能性について発言した。

また2014年の解散総選挙では、自民党が選挙報道に対する「選挙期間中の報道メディアの不偏性,中立性,公平性の保護の要請」と題した書簡をすべてのテレビ局に送るなど、メディアへの直接的、間接的な圧力が観察されてきた。2017年3月に発表された米国務省の人権報告書も高市発言に触れて、安倍政権によるメディアへの圧力強化に懸念が強まったと指摘している。

ケイ氏は日本国政府に対し、報道の独立性を強化する観点から,放送法第4条の見直し・撤廃、および放送メディアに関する独立規制機関の枠組み形成を勧告している。

※2日本語訳は外務省のサイトに掲載。(http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000262308.pdf)
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