加えて、記者クラブ制度の問題を指摘し、もっと広範囲にジャーナリストが参加できるようによびかけ、メディア関係者が会社の枠を超えた連帯を強める専門家の組織を形成することを奨励し、6月12日の国連人権理事会で報告した。それに対して伊原純一在ジュネーブ国際機関日本政府代表部特命全権大使が、「日本国憲法は表現の自由を保障している。わが国の説明や立場に正確な理解のないまま記述されている点があることは遺憾だ」と反論した。

また一部の大学関係者が「不当な日本批判を正す学者の会」を組織し、その事務局長の山下英次大阪市立大学名誉教授がケイ氏の報告について、「国内外の一握りの過激な『反日』論者の影響を強く受けているようだ」として、46人の連名で国連人権理事会に対し、ケイ氏の報告を受理しないよう要求した。しかし彼らはケイ氏と直接会って議論を尽くすことはしていない。

カナタチ氏はデータプライバシー法の専門家で、2015年から初代の「プライバシーの権利に関する国連特別報告者」を務める。2017年5月、当時国会で審議中であったいわゆる「共謀罪法案」をプライバシーの権利の側面から評価を行い、18日付けの書簡を安倍首相にあてて送った。

そこで、共謀罪を立証するためには監視を強めることが必要となるが、プライバシーを守るための適切な仕組みを設けることは想定されていないことから プライバシーや表現の自由を制約するおそれがある、などと指摘した(同氏が参考にした英訳に一部不足があると共謀罪創設を支持する弁護士などが指摘したが、その後の補足訳に基づいても憂慮は全く変わらない、と彼は説明している)。

この書簡に対して日本政府は強く抗議する文書を数時間以内に送り返した。しかし、カナタチ氏は、怒りの言葉が並べられているだけで書簡への質問に一切答えていないものであると反論した。このやり取り(※3)および日本政府の対応は海外メディアも広く取り上げた。(2 続きを読む>>)【藤田早苗】

※1特別手続は、特別報告者などがNGOや被害者などからの情報を活用して人権侵害に対処する手続き。
※2日本語訳は外務省のサイトに掲載。(http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000262308.pdf)
※3書簡の日本語訳と関連情報は、OurPlanetTV(http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2129)、日本の表現の自由を伝える会(https://hyogen-tsutaeru.jimdo.com/)のサイトに掲載。

>>>(2)日本政府のダブルスタンダード  藤田早苗
>>>(3)カナタチ氏は基盤のない個人的な意見を述べているのではない  藤田早苗

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藤田早苗(ふじた・さなえ)
エセックス大学人権センターフェロー。同大学にて国際人権法修士号、博士号取得。名古屋大学大学院修了。秘密保護法、報道の自由、共謀罪等の問題を国連に情報提供、表現の自由特別報告者日本調査訪問実現に尽力。

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