個人食堂を強制閉鎖 資本主義への警戒

もう一つ、対話局面が進むことの「副作用」として金正恩政権が警戒しているのは、国内で「資本主義でいいではないか」という空気が拡散することだと思われる。

咸鏡北道(ハムギョンブクド)の取材協力者は3月初めに次のように報告してきている。

「突然、高利貸しの摘発が始まって騒ぎになっている。清津(チョンジン)市では月利50%で金を貸していたグループが捕まった。これまで放置されていたのに『金貸しは資本主義的現象だ』と容赦ない」

また、3月26日から個人が運営する食堂に対して閉鎖命令が出されたと、両江道の取材協力者が伝えてきた。

「市場周辺では、個人の家や屋台でそばやクッパ(汁ご飯)などの食事を出す食堂がたくさんある。おいしいと評判の店には列ができ、出前サービスをする店もあってはやっている。ところが、突然、商業管理所や公的機関、貿易会社に登録されていない個人運営の食堂は許されないと、保安署(警察署)が閉鎖させている」
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社会主義の看板下ろすことは金一族の敗北

今や、北朝鮮の誰もが資本主義の韓国が豊かなことを知っている。南北朝鮮の体制間競争はすでに決着がついている。だからこそ、金正恩政権は社会主義の看板を絶対に下ろせない。なぜなら、それは金日成-金正日時代から唱え続けて来た「社会主義の優越性」を否定することになるからだ。つまり金一族による統治を根本否定することになるのだ。
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人々の間に、「朝鮮民主主義人民共和国は必要なのか、大韓民国でいいではないか」という根源的かつ危険な考えが広がることが、金正恩政権にとっては何より恐ろしい。南北の融和・交流は、北朝鮮の絶対独裁体制にとって、国内統制強化とセットになって初めて踏み切ることができる。これが悲しい現実なのである。(石丸次郎)

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