闇市場に援助食糧が横流しされている様子は、映像でも記録されている。北朝鮮と中国を行き来していたキム・ホン氏が2000年初頭に密かに撮影した清津市の闇市場の映像には、袋に「米国からの贈り物」「USA」などと印刷されているトウモロコシが大量に出回っている様子が映し出されていた。この映像は、日本と欧米で放送されている。

私自身、983月~4月にかけて鏡北道地域における食糧援助のモニタリング(監視)に同行取材をしたが、北朝鮮当局は既存の配給網にのっとった配布と、託児所や学校への配布を見せるだけで、配布後の事後検証を一切認めなかった。

手前は韓国からの支援米、奥は米国からの支援トウモロコシ。ともに袋の封が開いていない。2004年7月に清津市で撮影リ・ジュン(アジアプレス)

◆国際NGOの抗議と撤退  

98年12月、北朝鮮で人道支援活動をしている国連世界食糧計画(WFP)、国連開発計画(UNDP)、国連緊急援助調整官室(OCHA)の三つの国連機関と18NGOが共同声明を発表した。

「援助実施上の制約に悩まされており、事業の実施や検証が危ぶまれている」として、北朝鮮側のモニタリング妨害を憂慮する内容だ。

同時期に英国のNGO「オックスファン」が地域・施設への立ち入りや住民との接触妨害に抗議して北朝鮮から撤退した。ノーベル平和賞を受賞した「国境なき医師団(MSF)」も98年に撤退している。

これでは援助物資の組織的横領や、軍事転用の疑いが持たれても仕方がない。また、北朝鮮政府は本気で飢饉を克服する気がない、と判断されても仕方がない。

さすがに、2000年以降は、それまでの度重なる国際援助団体の撤退や、国連機関による警告、国際社会からの批判、そして情報の流入によって国際支援を受けていることを国民に隠しおおせなくなったからだろう。いくぶんの改善が見られるという。しかし、その後も北朝鮮当局の厳しいモニタリング制限は続いていたようだ。
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