中国と北朝鮮の国境に通い、脱北者数百人の取材を重ねてきた石丸さんは「日本社会は、帰国事業を、貧困や差別にあえいでいた在日朝鮮人が祖国に帰る慶事、いいこととしてこぞって『人道事業』として後押しした。9万3000人は、日本社会が背中を押して送り出した人たち。『在日朝鮮人史』の空白を埋める作業を『在日』と日本人の協働事業でやりたいと思う」と説明した。

この日、北朝鮮での生活について証言したのは広島県出身のパク・ヨンスクさん(79)。99年に脱北するまで約40年にわたって北朝鮮で暮らした。いまは韓国・ソウルで生活している。

パクさんは、先に帰国した両親や兄らを追って、60年代、帰国船に乗った。北朝鮮での厳しい暮らしは漏れ聞いてきていたが、「両親に会いたい一心だった」という。

「帰ったときには、ここで暮らしていけるのだろうかと思った。10年経てばよくなるかと思ったが、10年経っても20年経っても全然変わらなかった」とパクさん。苦しい暮らしをかろうじて支えたのは、日本の親戚からの送金だった。決して多くないお金を、きょうだいで分け合った。日本からの援助がない帰国者の生活はさらに過酷だったという。

政治犯として逮捕された兄は生死不明。息子2人も逮捕され、生死がわからないままだ。パクさんは「北朝鮮では言いたいことも言えなかった。人間には自由がないといけない」と話した。