「自由と基本的人権を守る宣言都市」「環境宣言都市」と掲げられた旧庁舎で強引に解体が進められようとしている(井部正之撮影)

◆守口市は計画見直すべき

こんなことは当たり前である。異なる建材を混ぜてよいのであれば、片方に法規制の0.1%をぎりぎり超える程度のアスベストが含まれ、もう片方にアスベストが含まれていなかった場合、それを半々で混ぜて分析したら0.1%を超えることはない。本来ならアスベスト曝露防止や飛散防止の対策が必要になるはずの建材がほかの建材を混ぜる“水増し”行為によってアスベストがないと偽装できてしまう。算数ができれば理解できることだ。それを適正と主張するような調査、分析会社など信用に値しない。

ましてや横引き煙道におけるアスベストの見落としは2018年5月に堺市でも見つかり、大きな問題になった。アスベスト調査に詳しい専門家によれば、「横引き煙道に煙突内と同じアスベストを入れることは煙突用アスベスト含有断熱材の(当時の)日本工業規格(JIS)に記載されていたくらいで常識ですよ」という。

堺市の件は当時ヤフーニュースやアジアプレス・ネットワークに筆者が「堺市が煙突内のアスベスト除去残しを見逃し専門家検査で残存確認」との記事を掲載したことをはじめ、複数のメディアが報じている。アスベスト調査や除去の業界ではこの件はよく知られており、その影響で煙突のアスベスト除去をより丁寧にせざるを得ないとして工事費用が見直されたとも聞く。

そんな状況で同じ大阪府内で煙突のアスベスト調査において横引き煙道を見落とすというのは信じがたい。

守口市はアスベスト調査は「きちんとした有資格者が適正に実施した」と強弁するのだが、その有資格者が調査ミスをいくつもしているではないか。「常識」でわかるはずのアスベスト建材すら見落としているのだからひどいものだ。

旧庁舎の隣地に住む今井さんは再調査・分析を求めたが、こうした経緯からほかにも見落としがあるのではないか、あるいは正しい分析結果ではないかもしれないと疑ってしまうのも当然ではないか。事実、素人に毛が生えた程度の筆者が説明会資料を見ただけでアスベストの見落としが見つかってしまうのだから、ほかにあってもおかしくはあるまい。なにしろ筆者から指摘を受けた部分以外は再調査などをしていないのである。

民間では今回のような不正が疑われた場合、別の調査・分析会社に改めて依頼して調べ直すといったことは珍しくない。まして違法な分析でさえ正しいと強弁する会社を信じろというのは無理があろう。

市は当面はアスベストの使用がない場所などの作業を始めるというのだが、現状では本当に適正に事前調査が終わったといえないのではないか。

また、作業中の飛散防止や工事完了後に取り残しがないかどうかの検査などを第三者機関に実施させるよう今井さんらは求めているが、市は実施しないという。

市財産活用課は「行政なので最低限の費用しか掛けられない」と釈明していたが、自治体には住民を守る義務があるはずだ。少なくとも東京都は現在実施中の築地市場のアスベスト除去で、アスベストセンターが都職員といっしょに現場に入るなど、独自の監視活動を始めている。完了検査についてもアスベストセンターなど外部の専門家が関与する方式を採用している。前出の煙突問題では堺市も建築物石綿含有建材調査者協会に改めて依頼して完了検査をやり直している。

守口市の主張は言い訳でしかない。この状況で強引に工事を進めて後にアスベストが見つかりでもすれば、堺市のように書類送検されてもおかしくあるまい。市は発注者として、また自治体としての責務を果たすべきだ。安全を考えるならまずは強硬着工を止め、改めて事前調査の再確認からやり直すべきではないか。

旧庁舎には「自由と基本的人権を守る宣言都市」「環境宣言都市」であることが掲げられていた。こうした状況で強引に工事を進めるのであれば、守口市はそうした宣言を撤回すべきであろう。

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