日本車のレクサスで水害被災農村を訪れた金正恩氏。2020年8月7日付の労働新聞より引用。

◆国が住民に食糧の直売始める

一方、各地で国家機関の「コメ販売所」が、住民に食糧の直売を始めていた。正規名称は「糧穀販売所」。地方政府である人民委員会の糧政局が運営している。もともとはいわゆる配給所だったが、住民対象の地域単位の食糧配給制度は、平壌を除いて破綻して久しく、工場や機関ごとに財政事情に応じて実施している。

役割を喪失した「コメ販売所」が、市場の商取引の向こうを張って、市場より若干安い価格で販売するようになったのだ。「並んでいるのは中国とロシアから支援されたコメと小麦粉だ」と取材協力者たちは口を揃える。

咸鏡北道の茂山(ムサン)郡の協力者は次のように報告する。

『コメ販売所』で中国米とロシア産の小麦粉を売り始めたのは7月初め。値段設定は、例えばコメの場合、市場で1キロ3.6中国元だったら3.5元、小麦粉は1キロ4600~4800ウォンのところを200ウォン程度安く売っている。ただし袋売り(40~50キロ)で質は良かったり悪かったりだ。近所の人たちと共同購入して分ける。市場のように品を選べないし、値段交渉もできない。茂山郡が貧しいせいもあるけれど、庶民には金がなくて、値段の高い白米を買える人は少数だ。庶民は小麦粉にジャガイモを混ぜてすいとんを作って食べている
※1元は約15円、1000ウォンは約12.7円。

他方、両江道の恵山(ヘサン)市では、一足早く直売が始まっていた。協力者は次のように言う。
『コメ販売所』で直売を始めたのは昨年から。今年に入ってコロナで貿易止まって中国産米が底をついた後は、協同農場が保有している販売用の食糧(営農資材購入費用に充てるために市場販売用として備蓄していたもの)を、当局が購入して売っていた。最近になって中国とロシアからの支援食糧が並ぶようになった。私の考えでは、当局は、民間人が売買する市場に対抗して、食糧販売を国家に集中させたいという意図があると思う。販売所のコメは質があまり良くないのと、品を選べないし、市場との価格差も微々たるものなのでので、ほとんどの人は市場で買っている

中国、ロシアからの支援食糧を活用して、食糧流通への国家統制力を回復させたい、支援食糧を売って現金収入にしたい、というのが当局の意図ではないか。

また、前出の茂山郡にある鉄鉱山では、6月末にトウモロコシ一週間分の配給があり、7月中旬には小麦粉一週間分が配給された。いずれも労働者本人分だけだ。小麦粉はロシアからの支援だという。
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