マスクで鼻を覆うのが煩わしいのはいずこも同じ? 有刺鉄線の内側で警備する若い国境警備隊員(左)と兵士。2021年7月中旬に中国側から新義州市を撮影アジアプレス

◆中国製の消毒薬が入る

「わが国では消毒薬の代わりにヨモギを焚いており、体温計すら作れない。防疫体系の物質的、技術的手段はゼロに等しい…」

金正恩氏の発言である。時は2020年2月27日。場所は労働党中央委員会の政治局拡大会議でのものだ。アジアプレスが入手した「絶対秘密」指定の内部文書に掲載されていた。中国から始まった新型コロナウイルスの流行に対し、金正恩氏は自国の保健・防疫体制が極めて劣悪であることに強い危機感を示していた。

実際、昨年夏頃まで、地方都市では塩水を噴霧して消毒作業をする有り様だった。それから1年余り。国内の防疫体制は、今どうなっているのか? 8月中旬、咸鏡北道(ハムギョンプクド)の取材協力者に訊いた。 (カン・ジウォン

――消毒薬などの不足は続いているのか?
去年まで消毒薬もなかったが、今は十分に供給されていると思う。毎日のように市場も消毒しており、マスク着用の取り締まりも続いている。 咸鏡北道の防疫所には中国製の防疫設備がたくさん入ってきた。消毒液を霧のように自動で噴射する機械だ。人の出入りの多い市場の入り口や機関、企業所に設置している。

――コロナ防疫を理由に人々の移動を強く制限していたが現在はどうか?
移動制限は今も厳しい。中国との国境地域は今も晩の午後8時以降は外出禁止だ。また道を越えての移動は難しいが、隣の郡には行けないわけではない。でも、とにかく検問所が多いため、移動をあきらめる人が多い。

――コロナのための検問所か?
郡や里の境界にはコロナ防疫の取り締まりの検問所がたくさんできた。確認書があれば通過できるが、防疫のためだと言いながら荷物を全部あさって検査する。荷物にまで消毒薬をかけるし面倒が多い。検査が終われば通過証を発給するが、次の哨所でまた同じ手続きをしなければならないので移動時間が長くかかる。

――商売で移動する人は?
荷物に難癖をつけられるので、商売で遠くに移動する人はほとんどいない。親戚訪問を目的に他地域と往来する人ばかりだ。あと移動するのは放浪者。コチェビ(ホームレス)や困窮者が検問をう回して農村に向かっている。この放浪者に対する取り締まりが厳しい。

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