大阪市内阿倍野区にある、市内で唯一の保健所。(2月・矢野宏撮影)

 

新型コロナウイルス感染で深刻な状況が続く大阪。2年前の第1波から保健所の人員不足が指摘され、態勢強化を求める声が相次いでいたが、教訓は生かされていない。その元凶は「保健師不足」だと、大阪府職員労働組合執行委員長の小松康則さんは言う。(矢野宏、栗原佳子/新聞うずみ火

コロナ死最悪の大阪は今(1)100回電話もつながらない保健所 繰り返される医療危機 新聞うずみ火

◆大阪市保健所職員 「帰宅はいつも終電」

保健所の厳しい状況をSNSで発信している大阪府職員労働組合執行委員長の小松康則さんは

「府下の保健所は、第4波、第5波までは何とか頑張って乗り切っていた。第6波に入ってからは感染者が多すぎて処理が追いつかない。朝から晩まで陽性者に連絡して症状などを詳しく聞き、入院が必要だと思われる方には入院調整を行う。大阪市でハーシス(厚生労働省の管理システム)への入力漏れがありましたが、府下の保健所でも入力に取りかかるのは夜遅くになってからで、帰宅はいつも終電。毎月、過労死ラインの残業時間を超える労働環境が続いています」と語り、こう話す。

「所内の電話が鳴りやまない。1台の電話にランプが10個ぐらいついているのですが、すべて光っている。みんなが陽性者らの問い合わせに応じているから電話を取る人がいないのです。一日中、電話の着信音を聞いているので、家に帰ってもずっと耳の奥に着信音が残っていて、おかしくなりそうだと言う保健師もいます」

業務ひっ迫を理由に、濃厚接触者の追跡調査をしなくなり、陽性者への健康調査も中止された。感染が確認された人へ府内の保健所から電話し健康観察を行う「ファーストタッチ」の対象は1月に40歳以上、2月には65歳以上と重症化リスクのある人のみとなり、外来入院は酸素吸入が必要な「中等症2」以上に限られるようになった。それでも現場は楽にならない。

2年前の第1波から保健所の人員不足が指摘され、現場からは過労死ラインを超える勤務を強いられている現状が報告され、態勢強化を求める声が相次いだ。にもかかわらず、教訓は生かされていない。その元凶は「保健師不足」だ。

◆大阪市の保健所は、たった一カ所

厚生労働省の調査では、大阪府の人口10万人当たりの保健師数は27・7人と、全国平均の6割程度。全国ワースト2位の少なさだ。

現在、府の保健所は9ヵ所。政令市や中核市の保健所を合わせると18あるが、2000年と比べると3分の1。かつて24区すべてにあった大阪市はわずか1カ所になった。

1994年に「地域保健法」が制定され、全国的に保健所の統廃合と人員削減が進んだ。大阪で保健師削減をより加速させたのが、橋下徹・大阪市長と松井一郎・大阪府知事時代の2012年に制定された「職員基本条例」だった。職員数の管理目標を5年ごとに職員を減らすもので、コロナ禍の緊急時でも定数を増やせない仕組みだという。

府職労では一昨年秋、保健師や職員増を求めるネット署名に取り組んだ。昨年4月、各保健所の保健師の定数が1人ずつ増えたが、定年退職者もいるので減員となった。

小松さんは「今は他の局から九つの保健所に約130人が応援に行っています。それでも足りません。応援を出す方も人がいないのです。保健所で8時から5時まで仕事して、終わってから自分の職場に戻って夜中まで仕事する状態。保健所にも府庁全体も人がいないのです。昨年度1年間の府職員の時間外勤務実績は、142万9037時間となっています。府職員の年間所定労働時間で考えると762人分の労働時間に相当します」と、職員減らしが根本にあると指摘する。

保健師らの声を、SNSを通して代弁する大阪府職員関係労働組合執行委員長の小松さん。(2月・大阪市中央区・栗原佳子撮影)

◆現場の声聞いて

さらに現場を混乱させているのがトップダウンの構図だ。例えば1月下旬、吉村洋文知事が「保健所の負担軽減」だとして導入を発表した「みなし陽性」。現場の保健師らは何も知らされていなかった。

「現場に周知する前になぜ、軽々しく発表して、しかも『負担軽減』だと。それで問い合わせが保健所に殺到して、さらにひっ迫するというのに。『あれだけテレビに出るのだったら、お願いだから府民に謝ってほしい。失政とか言わなくてもいいけれど、保健所は回っていません』と。そう言う保健師さんもいます」

小松さんらは第4波が小康を得た昨年7月、保健師や保健所の事務職員、看護師らとオンライン会見、薄氷を踏むような最前線の実態をまとめ、知事や健康医療部長宛てに「5波に備えてほしい」と申し入れをした。

しかし、結局、そのまま第5波に突入した。「第5波が終わった時に、保健師さんは『今の落ち着いているときに何とかしてほしい』と言っていましたが、何ら対策をやってこなかった。感染症対策の保健師を集めて声を聞くことかできたはず」と小松さん。

大阪では高齢者施設や障害者施設で感染者が出てもすぐに把握できない状態が続いている。入院や宿泊療養させこともできず、それぞれの施設が対応するしかない状態だ。第4波でも宿泊施設には介助が必要な高齢者や障害者、日本語が不得手な外国人は入所できず、保健師らは当時から強く改善を求めていた。

大阪はコロナの死者数が全国ワースト。吉村知事は2月21日の会見で「大阪は死者数が多いと言われるが、致死率で言うと都道府県で真ん中あたり。死者数がなぜ多いのか。専門家に聞いてもわからないのが現状」などと語った。

小松さんはSNSにこう書き込んだ。

「お願いだから現場の声を聞いてください。きっとそこからわかることがたくさんあるし、こうなる前にできる対策があったと思う」(つづく)

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