◆日本で未規制の自然由来

そのため2021年度の調査でも、「トレモライトを含む岩石が破砕される際に繊維状になる可能性は否定できないものの、今回の調査結果では、大気濃度調査において検出されたアスベストの発生原因の特定には至らなかった」と報告した。

つまり、現状では破砕する廃棄物に自然由来のアスベストが含まれているのか、あるいはもともと地域的に土壌に自然由来のアスベストを含むのか専門家の間でも結論が出ていない。同省調査ではアスベストを含む建材の混入は確認されていないが、これも完全に否定されているわけではない。

貴田委員はこうも指摘している。

「コンクリートがらの再利用はせねばならないけども、その中に石綿が入っているとなると、飛散してしまう可能性がある。へき開粒子と(アスベストである)繊維状粒子がおそらく混ざっているのではないかとSEMの画像から見えたので、今後気をつけていかねばならないのではないか」

今回の調査からはアスベストではないへき開粒子の中に微量のアスベストが含まれているとの印象を受けるが、十分な裏付けがあるとはまだいえないだろう。

検討会では土壌などを改めて調査することや飛散実験などを求める声が上がった。同省は今後の調査について「ご意見踏まえた形で」検討すると回答した。今後さらなる詳細な調査で原因究明がされることを期待したい。

日本国内にはかつて約50カ所のアスベスト鉱山があったというが、現在でもそうした地域における自然由来のアスベストに対する調査はほとんどなく、対策はなにも講じられていない。飛散が懸念される開発時の規制もない。

熊本県松橋地区においては、1994年に報告された疫学調査で住民にアスベストを吸った指標とされる、胸膜が厚くなるたこのような「胸膜プラーク」の発生が17%に上った。その原因は鉱山や関連工場からの「低濃度のアスベストの環境曝露」と考えられている。当時は健康被害はないとされたが、その後アスベストを扱う職業歴のない複数の住民に中皮腫などの発生が報告されている。

十数年前から世界的に自然由来のアスベストが大きな課題となっており、規制や対策の枠組みが徐々に作られてきた。米国や豪州だけでなく、日本よりも後に問題が顕在化した韓国でも、アスベスト安全管理法を制定して自然由来のアスベストがある地域における疫学調査や環境調査、環境修復を義務づけている。

日本では自然由来や土壌中のアスベストは規制すらされておらず、いまだ法の枠組みからも外れたままだ。世界第2位のアスベスト使用大国で、被害が急増している日本だからこそ次の世代への被害を防止するためにも適切な仕組みを設けて対策を講じていくことが必要だろう。

※山崎淳司教授の崎は「山へんに右側は立に可」が正式表記

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