アスベスト(石綿)による健康被害を受けて亡くなった労働者の遺族に対する「特別遺族給付金」の請求が打ち切り直前となる2021年度に、前年度の約14倍に急増していた。6月22日の厚生労働省発表で判明した。(井部正之

過去5年間の特別遺族給付金の請求状況(厚生労働省資料より作成)

◆打ち切り直前に急増

労災保険の遺族年金は死亡後5年で時効となり、請求できなくなる。ところが石綿による疾病は潜伏期間が非常に長く、吸ってから数十年後に発症する。そのため中皮腫(肺や心臓などの膜にできるがんで、)や肺がんなどになっても石綿ばく露による被害であることに長い間気づかないということが珍しくない。また石綿を扱っていたことをそもそも本人や遺族が知らないこともある。

実際に遺族年金を請求することができなかった遺族が存在していたことから、「すき間なき救済」を掲げて2006年に制定された「石綿健康被害救済法」で時効となっていても遺族が請求し石綿が原因と認められれば、特別遺族給付金として1200万円の一時金もしくは年額240万円の年金を受け取ることができる救済制度が設けられた。

時限措置だったため議員立法で2度延長されたが、今年3月27日で期限となり請求できなくなった。

例年40件前後が多い同給付金の請求は、打ち切り直前の2021年度では、前年度比13.7倍の546件に急増した。

昨秋から患者団体が中心になって「無期限延長」を訴えてきた。3月にはこの問題がメディア各社で取り上げられた。全国で無料電話相談を実施したところ、3月の3日間だけで700件を超える相談があったという。

請求の急増はそうした草の根活動とメディア報道による結果だろう。

この問題をめぐっては国が周知をさぼっていたことも明らかになった。

同省は打ち切り前に国側が持つ死亡届に基づいて石綿による労災の可能性のある人の遺族に対し、個別に周知することになっていたが、全国8ブロックのうち、関東甲信越の430件しか実施されていなかった。

同省の説明によれば、当初の入札では全国一括でしたが落札されず、その後ブロックごとで実施したところ、関東甲信越だけ落札された。その結果、ほかの地域は放置された。

◆徹底した周知必要

6月の国会審議で「やむを得ず同ブロックのみ個別周知の取り組みを実施した」と同省は釈明した。だが、以前から期限はわかっていた以上、同省の怠慢というほかない。

結局、議員立法により請求期限は10年延長された(6月17日施行)。

今回これだけ請求が急増した以上、同省が上手く周知すれば、請求件数は間違いなく伸びるはずだ。

国会審議でも個別周知の重要性が指摘され、同省も取り組むことを約束した。今度こそ徹底した周知活動がされなければならない。

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