北朝鮮のコロナ対策は過剰。中国との国境の川・鴨緑江の川辺で防護服を着て堤防修復作業をしている。2020年10月に中国側から撮影アジアプレス

5月に新型コロナウイルス感染者の発生を公式に認めた金正恩政権は8月10日に「勝利宣言」を出した。以降、感染者も発熱者も出ておらず、行動規制も大幅に緩和されたというが、実態はどうなのか? 8月後半、北部地域に住む取材協力者たちに現状を聞いた。その1回目は両江道(リャンガンド)の二人の証言を紹介する。(カン・ジウォン/石丸次郎

◆両江道の二人の証言

10日に開かれた全国非常防疫総括会議で「勝利宣言」して以降、北朝鮮当局は毎日発表してきた「悪性伝染病による発熱者数」を出さなくなった。25日には両江道でコロナ関連が疑わしい発熱者が4人発生したと報じたが、翌日にはインフルエンザによるものだったと説明している。

「勝利宣言」以降の実態について恵山(ヘサン)市に住む二人の報告を紹介したい。なお、これまでのアジアプレスの調査では、多くの地方都市ではコロナ感染を判定する検査が実施されておらず、発熱の有無や咳などの症状のみから判断しているのが実態だ。以下の報告における「感染判断」も同様である。

◆PCR検査なんて知らない

A氏は市中心部に住み商売を営む。

 

――金正恩氏がコロナに勝利したと宣言しました。もう発熱者はいないのですか?

「発熱する人は随分減ったけれど今も出ていますよ。けれど、ただの風邪として扱われます。重い症状の人が出ているとは聞きませんね。もう、住民のほとんどが一度コロナに罹ったという認識です」

 

――発熱者がいるなら、今も隔離していますか?

「基準が曖昧なのです。熱が出たら自発的に隔離せよということになりました。もし咳と熱があれば「打倒対象」(強制隔離、処罰)になるかもしれないと考えて、自分で外出しないようにします。私の人民班では最近2世帯でコロナのような症状が出ましたが、担当医師は普通の風邪だとしています」
※人民班は末端の行政組織で、20~30世帯程度で構成。

 

――PCR検査はしていますか?

「私に何度も尋ねますけれど、そんなものはしていない。体温を測って問診して、それで判定するやり方のままです。PCR検査が何なのか、私は知らないし見たこともない。幹部たちは受けているのかもしれませんが」

 

――中国との国境都市と韓国との前線は防疫規制を維持すると発表がありましたが、統制は緩みましたか?

「防疫は続けていますが、マスクを着けない人が摘発されるようなことはなくなりました。外に出る時は自発的に着用せよと指示されています。会議などに集団的に参加する際は、着けて出てこいと言われるくらいです」

マスクを着けて有刺鉄線の内側で警備する若い兵士たち。2021年7月に新義州市を中国側から撮影アジアプレス

◆発熱者は今も出ている

B氏はやはり市中心に住む家庭の主婦だ。

 

――防疫規制は緩みましたか?

「まだ緊張を維持しろと言っています。他地域は解除されたようですが、ここは(中国との)国境地帯だから。ただ、熱を測るのも、今では症状がある人だけというのが原則になりました。熱が出たら自発的に申告して治療を受けて自己隔離しろとなりました」
※「勝利宣言」以前は、人民班別に巡回して毎日2~3回の体温測定があったという。

 

――アパート周辺での消毒は続けていますか?

「消毒の回数は1日4~5回から2回に減りました。主に発熱者が出ている地域を対象にしています。ここの人たちはみんなかかって完治した人たちばかりなのではないか。症状がひどくなる人はほとんどいないと思います。

しかし、ただの風邪なのかコロナなのかわかりませんね。まだ防疫体制は続いていますが、人々はもう大丈夫だろうと期待しています」

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