◆10年前でも100人超被害

そのうち2021年度の認定は6人(中皮腫4人、肺がん1人、びまん性胸膜肥厚1人)。勤め先はビルメンテナンス会社や避難器具の製造販売会社、カラオケ機器の販売リース会社、舞台機構設備の製作・販売会社など。

2013年に制度化された国土交通省の「建築物石綿含有建材調査者」講習向けに最初に作られた講習テキストでも吹き付け石綿による健康被害は説明されている。それによれば、海外では1989年には吹き付け石綿の下で働いていた労働者の中皮腫などの健康被害が報告されており、それ以降も多数の被害が存在することを9件の論文を引用して示している。

また大阪の近鉄高架下で文具店を営んでいた店主が中皮腫を発症して死亡した事案についても言及。倉庫だった2階の壁に吹き付けクロシドライト(青石綿)が使用され、そこでは静穏時でも空気1リットルあたり1.02~4.2本が飛散。荷物の搬入と清掃した際には同136.5本に達した。この事例は〈吹付け石綿のある文具店の石綿濃度は大気と比べて高く、文具店で勤務したことが悪性胸膜中皮腫を発症した主な原因と考えられた〉と説明。実際にその後民事訴訟で建物所有者に損害賠償責任があると認められた判決が確定した。それどころか第2、第3の被害も明らかになっている。

さらに今回筆者が調べたのと同じ厚労省の資料について、〈同公表のうち、石綿ばく露作業状況が「吹付け石綿のある部屋・建物・倉庫等での作業(建設業以外)」に分類された石綿関連疾患の発症事例は、100名を超えている〉と日本国内の被害状況にも触れた。

当時講習テキストの作成にかかわっていた関係者によれば、厚労省にも確認してもらっていたというから、国としての公式見解といえよう。

実際に各年度ごとにデータを積み上げると、2005~2006年度の34人を皮切りに毎年10人前後(平均9.57人)増加しており、2013年度には累計105人と初めて100人を超えた。

仕事で石綿を扱ったこともなく、石綿を扱う作業の近くで働いていた関節ばく露でもない。単に吹き付け石綿がある部屋や倉庫などで働いていた「だけ」でこれだけの人びとが中皮腫などを発症し、労災認定を受けている。それほど危険性が高いということだ。

★新着記事