◆建物使用時調査で「有資格者」義務づけを

2017年5月の国交省アスベスト対策部会でNGO「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」所長の名取雄司医師は吹き付け石綿の調査の重要性をおおよそ次のように指摘している。

「こういう建築物の調査をなぜしなければいけないかというと、それは、建物の中で、アスベストに全く関係のないような方が石綿関連の病気で亡くなられているからです。すでに建物の中でアスベストと関係のないような、金融機関のお仕事であったり事務仕事であったり、食品の製造とかそういうことをしているような方で、100名以上の方がこういう病気になられています。大体毎年8名前後増えています。そういう状況ですので、100名を超す、200名とかそれ以上になっていくのかもしれません。そういう方の命をどういう形で守っていくのか、予防するのか。そのためには、まず調査をして実態把握をしなければいけないというために、このワーキンググループ、もしくは部会があるということを述べさせていただきます」

会合の後半にはこうも発言している。

「調査や分析など、有資格者については、今後は調査・分析に加え、日常の管理や撤去などの場面においても有資格者を活用するべきでしょうし、さらなる人材の育成も継続していく必要があります。もちろん、(石綿)ばく露予防の観点から、建物のメンテナンスや解体時に対しても、そういった有資格者の意見を仰いで、それをもとに対策が実施されるというようなしっかりとした制度が日本でも必要だと思っております」

すでに2021年度までに累計182人であり、あと数年で間違いなく200人を超える見通しだ。名取氏は現在の状況を“予言”しつつ、建物の通常使用時における徹底した石綿調査と管理を義務づける必要性を訴えている。

ところが国交省は建築基準法の改正から逃げ続けた。それどころか2019年3月以降、対策部会は休眠状態となり会合もなくなった。その結果いまにいたっても規制の不備が放置された状況が続いている。

今年10月からは建物などの改修・解体時の石綿調査については有資格者「建築物石綿含有建材調査者(調査者)」が実施する義務規定が施行される。じつはもともと調査者制度は建物の通常使用時における石綿の調査・管理のために作られた。にもかかわらず、今回施行の義務規定からは有資格者による通常使用時の調査は除外されたままだ。

国は建物など通常使用時における石綿調査や管理の義務が不透明な現状の制度をいい加減改めるべきだ。吹き付け石綿の見落とし事例も頻発しているなか、今後も建物使用時の石綿リスクはこれまでどおり“素人調査”によるずさん管理でかまわないとでもいうのだろうか。

 

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