(参考写真)北朝鮮では農民はもっとも貧しい職業だと蔑まれてきた。2008年10月に平壌郊外の農村で撮影チャン・ジョンギル(アジアプレス)

北朝鮮の北部地域で大麦、小麦の収穫が7月中旬までに終了していたことが分かった。ただ収穫物の取り扱いに協同農場が関与できず、政府の指示で軍隊に送られることになり、農場員から不満の声が上がっているという。(カン・ジウォン/ 石丸次郎

7月中旬、咸鏡北道(ハムギョンプクド)A市に住む取材協力者が、B協同農場に赴いて現地調査を行った。B農場は農場員数約500人。主にトウモロコシを栽培している。咸鏡北道では平均より若干小規模な農場だ。

2022年に小麦、大麦の栽培を始めよという金正恩氏の直々の指示があり、B農場でも昨年試験的に麦作を始めた。収量は芳しくなかったが、トウモロコシより肥料が少なくて済んだことと、トウモロコシより先に収穫できるので、農場員たちには好評だった。

協力者の調査によれば、今年も麦の作付面積は多くなく、収量は1町歩(約1ヘクタール) あたり800~1000キロ程度だったという。B農場全体の麦の作付面積と割合は確認できなかった。

◆収穫した麦は軍隊に搬出指示

ところが、収穫した麦の取り扱いに農場が関与することが許されず、問題になっていた。協力者は状況を次のように説明する。

「収穫した麦は、すべてA市の農村経営委員会(行政機関)を通じて搬出し、軍用に回されることになった。今は『ポリコゲ』の時期で、どの農村でも食糧が不足しており『絶糧世帯』が多い。期待していたのに農場にまったく残されなかったので、農場員たちの不満は大きい。

一部の分組長が脱穀時に無断で麦を持ち出して困難世帯に配布したのだが、それが発覚して呼び出されたそうだ。収穫物を農場自らが処理する行為を一切根絶せよという指示が、あらためて出されていた」

※「ポリコゲ」 春窮期のこと。8~9月のトウモロコシの収穫までの端境期のこと。農村で食糧不足が発生する。
※「絶糧世帯」 食糧も現金も底をついた家庭のこと。
※分組 協同農場で農作業をする最小単位のこと。10人程度で構成される。

B農場には、農作業の支援と警備のために春から軍の2小隊が常駐しているが、その兵士たちは収穫された大麦、小麦を食べていたという。

◆市場にも小麦出回る

このように収穫物の管理が徹底しているにもかかわらず、麦は市場に流出している。両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市に住む取材協力者が7月21日に市場で調査したところ、国内産の皮付き小麦が1キロ当たり3700ウォン(約63円)で販売されていた。ロシア産も同じ価格だったという。収穫された麦の管理が、地域や農場ごとに異なる可能性もある。

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

北朝鮮地図 制作アジアプレス

 
 

 

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