1 (参考写真)路上に売られているペッボトルの中の透明な液体はおそらく自家製の酒だろう。度数は25度程度だという。2008年9月に平壌市郊外で

北朝鮮当局が秋の収穫を機に酒の密造を「反国的家行為」と規定して厳しく取り締まっていることが分かった。酒の価格は高騰し、当局の目を避けて山奥や人里離れた場所で密造を続ける人も現れている。(カン・ジウォン/チョン·ソンジュン

◆「酒密造は敵どもの反朝鮮策動を助ける行為だ」

11月中旬、北部両江道に居住するアジアプレスの取材協力者は、「酒はトウモロコシで作るのだが、食糧で酒を作ることは敵どもの反朝鮮策動を助ける反国家的行為だと、当局が11月4日に住民に伝達した」と伝えてきた。酒の密造は国家が管理する貴重な食糧の浪費であると規定したわけだ。

協力者によれば、安全局(警察)などの取り締まり機関は、穀物で酒を作って金を稼ぐことには容赦しないという姿勢で、密造を摘発した場合、少なくとも3カ月以上「労働鍛錬隊」に送ることになると人民班を通じて住民に通知したという。

実際、協力者の周囲では検挙が続いているという。賄賂を受け取って密造の取り締まりを怠った「糾察隊」員2人が処罰を受け、都市建設事業所で働く幹部2人が密かに密造酒10リットルを購入していたことが問題となり解任されたという。

※人民班は最末端の行政組織で、通常20~30世帯程度で構成される。
※「労働鍛錬隊」とは社会秩序を乱したり軽微な罪を犯したりした者を司法手続きなく1年以下の強制労働に処することができる「短期強制労働キャンプ」のこと。安全局(警察)が管理する。
※「糾察隊」は、社会的風紀が守られるよう人々を監視・取り締まりに当たる臨時動員組織だ。
※都市建設事業所は、建設、建設物の維持、補修を担当する行政機関。

2 (参考写真)地域の協同組合経営の「便宜商店」で国産の焼酎やウォッカが売られていた。2011年9月平壌市にて撮影ク・グァンホ(アジアプレス)

◆酒の密造を取り締まるもう1つの重要な理由

これまでも北朝鮮では酒の密造を取り締まってきたのだが、今回はかつてない厳しい姿勢で臨んでいるようだ。理由は2つ考えられる。第1に、前述したように酒の主原料であるトウモロコシが不足しており、国家による食糧配給や食糧専売制に支障をきたすことを憂慮してのことだとろう。金正恩政権は2023年1月から市場での食糧販売を禁じ、食糧の流通を国家管下に置く措置を徹底しようとしている。密造で国家保有食糧が流出してしまうのを防ぎたいわけだ。

密造を厳禁するもう1つの理由は、金正恩政権がコロナパンデミック以後、強力に展開している経済の国家統制措置と関連している。過去20数年、消費物資の流通、保管、販売は市場が担ってきた。それを今、国営の商業網の管理下に置こうとする動きが加速している。

需要が多い酒類についても、個人や民間が生産、流通させることを絶対に許さないという強い国家意志が示された形だ。それは、国営企業で生産された酒類が国営商店や市場で制限なく販売されていることからもうかがえる。

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