◆市職員2人の“素人”清掃

そもそも吹き付け石綿の除去作業は、労働者の保護を目的とした労働安全衛生法(安衛法)石綿障害予防規則(石綿則)や住民の保護を目的とした大気汚染防止法(大防法)で厳しく規制されている。きわめて大雑把に説明すると、作業の14日以上前に届け出することをはじめ、現場をプラスチックシートで密閉に近い状態にする「隔離養生」のうえ、作業場内を減圧して石綿を除去する「負圧除じん装置」などを設置。事前に講習や専門の健康診断を受けた作業員が専用の防じんマスクに防護服を装着し、湿潤状態にして飛散を抑えつつ除去する。清掃では石綿を除去する専用の真空掃除機が必要。飛散を抑制する薬液なども使う。現場監督は「石綿作業主任者」の資格が必要である。

さらに除去が適切に完了したのか、石綿の取り残しがないかについて、石綿作業主任者ないし「建築物石綿含有建材調査者」が確認する義務も設けられている。

除去した吹き付け石綿などの扱いは廃棄物処理法(廃掃法)で規制されており、専用の二重袋に入れ、特別に管理が必要な「廃石綿等」として扱い、適正に処分しなければならない。また特別管理産業廃棄物管理責任者を選任のうえ、同管理者による処理計画の立案や現場管理などが求められる。

これらは作業の規模とは無関係に実施しなければならない。それだけ吹き付け石綿などの除去は危険性の高い作業なのである。細かな作業方法はマニュアルで定めている。 ところが大阪市は、市議会で約束した「有資格者により除去」すら守っていなかった。講習を受けていない市職員2人による“素人”清掃だったのだ。

隔離養生や負圧除じんもなければ、石綿作業主任者の選任もない。真空掃除機の使用もない。当然、有資格者による取り残しの確認もない。このように市による清掃は、通常の除去工事で定められた規制を軒並み無視した不適正作業だった。

あげく「目立つから」との理由で、除去した吹き付け石綿などを専用袋にすら入れなかった。石綿の飛散事故を隠したい、あるいは極力問題を小さく見せたい市の姿勢が透けて見える。 破損防止でマニュアルには袋の厚さも規定。ほかの廃棄物と勘違いして捨ててしまうといったことを防ぐためにわざわざ専用袋が存在するのだが、それすら理解できていないことになる。危険な石綿を扱う基本がわかっていないことがよく表れている。

今回の落下事故対応が法令違反ではないかと指摘する筆者に対し、市の本場副場長は「規定がない」と反論した。

市は、上記はあくまで改修・解体工事の規制であり、今回には当てはまらないというのだ。たしかに石綿則や大防法は建物などの改修・解体などの工事を規制として定めた部分が多く、じつは今回のような落下事故や飛散事故といった緊急時の対応について規定が少ない。

今回の落下事故への対応として実施された「清掃作業」が石綿則の「解体等」あるいは大防法の「解体・改修・補修」に該当するか否かについては規制の施行通知やマニュアルに位置づけがない。いわば法令上の“グレーゾーン”で、担当者の解釈しだいだ。 だからといって、市の主張はおかしい。

そもそも西棟の吹き付け石綿見落としは、市が2008年に2度にわたる国の通知を無視して吹き付け材の再分析をサボったことが原因だ(詳細は2023年8月23日アジアプレス・ネットワークなどに掲載の拙稿「大阪市のアスベスト見落としめぐり市の責任も“隠ぺい” 原因究明すら放置」)。そのため15年間にわたって吹き付け石綿が劣化するまま放置された。

今回の清掃作業は、市の建物管理が劣悪なために吹き付け石綿が落下。その結果、必要になったものだ。 おまけに市が規制外と主張する清掃作業は、吹き付け石綿の除去作業から、壁やはりなどの吹き付け材を金属製のへらなどでかき落とす作業を省いただけで、それ以降はまったく同じなのだ。

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