◆国は「除去と同等の対応を」と求める

つまり、実質的に吹き付け石綿の除去作業である以上、そこで働く人びとや周辺に居る人びとの安全確保の観点から同じ規制を適用すべきだ。まして吹き付け石綿の劣化が市の手抜きによって起きている以上、当然であろう。

同市場を所轄する西野田労働基準監督署は「個別具体的なことはお答えできない」と回答。そのうえで一般論として、吹き付け石綿が落下した際の清掃作業は「解体等」に該当しないとの見解を示す。環境省大気環境課も同じく「解体・改修・補修に当たらない」との考えだ。

ただし両省とも「法令はあくまで最低限の義務であり、除去作業と同等の保護措置を講じることが望ましい」と強調する。それが当たり前である。 真面目に吹き付け石綿を除去する場合には法令上の厳しい規制がかかるが、ずさんな建物管理で吹き付け石綿を落下させてしまえば、規制の対象外で手抜き対策が可能になって費用を節約できる、などということが許されてよいはずがない。それでは“正直者がバカを見る”ことになる。

にもかかわらず、市は法令の解釈上「解体等」や「解体・改修・補修」といった「工事」ではないから規制対象ではなく、法令に従う必要はないと主張している。この法令上の“グレーゾーン”ぎりぎりを攻める大阪市の手法は、法の“抜け穴”を駆使する悪徳業者そのものである。大防法の監督・指導権限を持つ政令指定都市がそんな主張をして恥ずかしくないのか。これでは民間業者に示しがつかない。 さらにいえば市の主張通りだとしても、実際に法令違反が強く疑われる状況なのだ。

「石綿作業主任者」の選任は「石綿若しくは石綿をその重量の0.1%を超えて含有する製剤その他の物を取り扱う作業」で義務づけられており、今回の清掃作業にも適用される。市は選任していなかったことを認めており、本場の副場長は筆者の取材に「(資格を)取りに行かないといけないと思っていた」と話す。つまり石綿則(第19条)違反を認識のうえで実行した可能性がある。起訴されて有罪になれば、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金である(組織への両罰あり)。

この間市は落下事故への準備を進めていたが、まだ途中だったと筆者に説明した。しかし、すでに半年あったではないか。そして予期されていた以上、わずか2日間の石綿作業主任者講習を受けられないなど言い訳でしかない。それだけ石綿対策の優先順位が低かったということだろう。

すでに報じたが、市は清掃後に実施したという空気環境測定で結果が出ていないにもかかわらず、市場の利用を再開した。安全軽視も甚だしい対応であり、石綿則(第10条)違反の可能性がある。

こうした安全軽視の姿勢からいくつもの法令違反やグレーゾーンぎりぎりの対応を繰り返し、都合の悪いことは公表しない現状からは、今後も形式的にごまかすだけの対応に終始するのではないか。マスコミも以前ほど石綿問題では騒がないし、市場で働く人たちには適当に安全とごまかしていれば大丈夫と計算していてもおかしくない。しかしそんな不誠実な対応でよいはずがない。

市は法令違反や不適正作業の詳細をきちんと公表のうえ、改善につなげる必要がある。今回の市による清掃は、石綿対策の基礎が欠けているといわざるを得ず、「石綿作業主任者」の選任だけすればよいなどということでは決してない。

そして“正直者がバカを見る”規制の抜け穴を国は以前から知りながら放置している。大阪市のような政令指定都市さえそれを利用する状況では、性善説的な規制はもはや機能しないことは明らかだ。こうした事案が起きるたびに指摘しているにもかかわらず、国がこれ以上サボリ続けるようではむしろ悪徳業者のためにわざと残しているといわれても仕方あるまい。国は早急に規制強化に踏み切るべきだ。

 

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